平穏無事な日々を漂う〜漂泊旦那の日記〜

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山口未桜『禁忌の子』(東京創元社)

 救急医・武田の元に搬送されてきた、一体の溺死体。その身元不明の遺体「キュウキュウ十二」は、なんと武田と瓜二つであった。彼はなぜ死んだのか、そして自身との関係は何なのか、武田は旧友で医師の城崎と共に調査を始める。しかし鍵を握る人物に会おうとした矢先、相手が密室内で死体となって発見されてしまう。自らのルーツを辿った先にある、思いもよらぬ真相とは――。過去と現在が交錯する、医療×本格ミステリ!(粗筋紹介より引用)
 2024年、第34回鮎川哲也賞受賞。同年10月、東京創元社より単行本刊行。

 作者は現役の消化器内科医。大ファンだという有栖川有栖の創作塾出身。
 兵庫市民病院救急科医師である武田(わたる)の前に搬送されてきた溺死体、キュウキュウ十二の顔は、武田と瓜二つだった。中学時代の同級生で、謎解きが得意な城崎響介が同じ病院の消化器内科の医師として勤めていることを武田は知り、相談する。城崎のアドバイスから自らの母子手帳を調べ、生島リプロクリニックの生島京子理事長が事情を知っているらしいことがわかり、二人で約束の時間に訪れる。しかし理事長は、鍵のかかった理事長室のドアのノブにかけられたベルトで首を吊っていた。
 冒頭で強烈な謎を投げつけられるので、二番目の事件が起きるまでの展開がスローでも気にならない。それに専門的知識を物語の流れを削ぐことなく溶け込ませているから、読者にもわかりやすく、そして面白い。武田が妊娠中の妻とやり取りする緩急のつけ方もうまい。序盤のスローテンポから徐々にギアをあげて終盤に入る流れも、無理な急加速による不快感のない筆さばきである。もっとも、題材としてはちょっと手垢の付いたものであることは否めない。密室の謎や最後の犯人まで辿り着くロジックも悪くはないものの、インパクトに欠けることも事実。だから、ストーリーを楽しむ作品として読んだ方がいい。
 これまでの鮎川賞の中でも、一、二を争う完成度。これだけ完成度が高ければ、鮎川賞受賞も当然だろう。ただその完成度は、達者な量産作家の佳作レベル。言い方は悪いが、新人作家らしいフレッシュさがない。贅沢な要求だが、ちょっとしたぎこちなさと大胆さが欲しかった。
 既に〈医師・城崎響介のケースファイル〉シリーズ第2弾として『白魔の檻』が予告されている。冒頭に出てきた研修医・春田芽衣が城崎と共に活躍するようだ。城崎のキャラクターにもう少し魅力が増せば、テレビドラマの人気作になりそう。