平穏無事な日々を漂う〜漂泊旦那の日記〜

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芦沢央『許されようとは思いません』(新潮文庫)

「これでおまえも一人前だな」入社三年目の夏、常に最下位だった営業成績を大きく上げた修哉。上司にも褒められ、誇らしい気持ちに。だが売上伝票を見返して全身が強張る。本来の注文の11倍もの誤受注をしていた――。躍進中の子役とその祖母、凄惨な運命を作品に刻む画家、姉の逮捕に混乱する主婦、祖母の納骨のため寒村を訪れた青年。人の心に潜む闇を巧緻なミステリーに昇華させた5編。(粗筋紹介より引用)
 2016年6月、新庁舎より単行本刊行。2019年5月、新潮文庫化。

 

 入社三年目の夏、常に最下位だった営業成績が3位になった葛城修哉。上司にも褒められて喜んだはいいが、売上伝票を見るとリフォーム用の木材1枚の受注を11枚と誤記していた。今更直しようもない修哉は策を考える。「目撃者はいなかった」。
 現在子役として活躍中の杏。そんな杏を食事から行動まで管理する祖母。母親が年賀状に刷った家族写真は、今より10kg以上太っていたころの杏の写真だったため、祖母は母親を叱る。「ありがとう、ばあば」。
 画家として有名な浅宮二月は、夫の恭一を匕首で切り付けて殺害した。二月は三日後に逮捕されたが、発見された空き家に残されていた絵には、首から血を吹き出す男の絵があった。「絵の中の男」。
 常に尊敬してきた6歳違いの姉の逮捕に動揺する妹。妹はママ友に阻害されているのではないかとだんだん疑心暗鬼になり、3歳になった娘の行動の一つ一つが気になりだしてきた。「姉のように」。
 かつて祖母が暮らしていた檜垣村の寺を、婚約者の水絵とともに訪れた諒。祖母は昔、同居していた曾祖父を殺害し、村八分どころか村十分の状態になっていた。しかし曾祖父は癌で余命わずかだったのに、なぜ殺したのか。「許されようとは思いません」。

 

 日常の不幸な物語にミステリのエッセンスを加えた短編5本をまとめた短編集。読みやすい描き方をしているのでスラスラとページは進むのだが、読んでいてだんだんと憂鬱になってきた。確かに仕掛けはあるし読み終わってしまうとなるほどと思ってしまうのだが、嫌な気分になること間違いなし。ただ、最後の作品だけが救いかな。これで救われました。単行本から文庫化するときに作品の並びを変えたとのことだが、それは正解だと思った。
 うまいとは思うけれど、1本目から4本目のような作品なら次を読みたいとは思わなかったな。最後の作品があるから、他の作品を読んでみようと思った。