平穏無事な日々を漂う〜漂泊旦那の日記〜

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青山文平『白樫の樹の下で』(文春文庫)

 賄賂まみれだった田沼意次の時代から、清廉潔白な松平定信の時代に移り始めたころの江戸。幕府が開かれてから百八十年余りたった天明の時代に、貧乏御家人の村上登は、道場仲間と希望のない鬱屈した日々を過ごしていたが、ある時、一振りの名刀を手にしたことから物語が動き出します。第18回松本清張賞受賞作。(粗筋紹介より引用)<br>
 2011年、第18回松本清張賞受賞。2011年6月、単行本刊行。2013年12月、文庫化。

 

 のちに大藪春彦賞直木賞を受賞する青山文平のデビュー作。とはいえ、経済関係の出版社に18年勤務し、その後はフリーライターとして活躍。1992年には影山雄作名義の「俺たちの水晶宮」で第18回中央公論新人賞を受賞し、1994年には単行本となっている。
 村上登の視点で話は進むが、物語は伝説の剣豪である佐和山正則の道場の門下生三人の若者を描いたものである。村上登、青木昇平、仁志兵輔。作者の名前を投影しているこの三人は、天下泰平の時代に流され、運命が少しずつ狂っていく。何から抜け出そうとしたのか、そして抜け出せなかったのか。蝋燭問屋、藤木屋の次男である巳乃介、時々助太刀をしている錬尚館当主寺島隆光、兵輔の妹である佳絵などが三人に絡み、そして物語は動いていく。天下泰平の世の武士とは一体何なんか。何とも哀しい物語であった。
 なんか、もがいてももがいてもどうにもならない現代を見せられたような気がする。救いの見えない結末は、混沌としてくる時代の象徴なのだろうか。