平穏無事な日々を漂う〜漂泊旦那の日記〜

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ディーリア・オーエンズ『ザリガニの鳴くところ』(早川書房)

【2021年本屋大賞 翻訳小説部門 第1位】ザリガニの鳴くところ

【2021年本屋大賞 翻訳小説部門 第1位】ザリガニの鳴くところ

 

 ノース・カロライナ州の湿地で男の死体が発見された。人々は「湿地の少女」に疑いの目を向ける。6歳で家族に見捨てられたときから、カイアは湿地の小屋でたったひとり生きなければならなかった。読み書きを教えてくれた少年テイトに恋心を抱くが、彼は大学進学のため彼女のもとを去ってゆく。以来、村の人々に「湿地の少女」と呼ばれ蔑まれながらも、彼女は生き物が自然のままに生きる「ザリガニの鳴くところ」へと思いをはせて静かに暮らしていた。しかしあるとき、村の裕福な青年チェイスが彼女に近づく……みずみずしい自然に抱かれて生きる少女の成長と不審死事件が絡み合い、思いもよらぬ結末へと物語が動き出す。全米500万部突破、感動と驚愕のベストセラー。(粗筋紹介より引用)
 2019年、アメリカで発表。2020年3月、邦訳刊行。

 

 作者はジョージア州出身の動物学者。現在はアイダホ州に住み、グリズリーやオオカミ、湿地の保全活動を行っている、とのことで、本作品は70歳で初めて書いた小説。
 1969年、バークリー・コーヴという架空の村で、アメフト選手として人気だったチェイスが湿地で死体となって発見される。展望台から墜落したものであったが、本人も含め、展望台の周りに足跡はなく、殺人事件として地元の捜査官が犯人を追う。そしてもう一つの物語は、6歳で家族に見捨てられたカイアが、湿地の小屋で一人で成長する姿が描かれる。
 うーん、これは何だ。いや、読んでいてすごい惹かれる。とても面白いし、胸に来るものがある。カイアの人生に圧倒された。一代記という点で見ると、すごい作品。自然描写もうまいし。ただ、ミステリとしてはどうなんだろう、とは思ってしまった。作者はそんなことを考えずに書いたんだろうとは思うのだが。
 正直言って、この湿地に住むことで蔑まれる状況が最後まで理解できなかったのだが、そこはもうちょっと調べてみよう。
 カイアが徐々に疑惑の目を向けられていくところは、本当に切ない。結局、読んでいくうちにカイアへの思い入れが強くなっていくんだよな、これ。いつも燃料を買いに行く店の主人とかがカイアに肩入れしているけれど、その気持ちわかってしまう。
 ミステリの部分、必要だったのかな、という思いと、これがあるからカイアという存在がより大きく浮かび上がったのかな、という思いがある。何とも形容し難い。難しいなあ、この作品の感想は。ただ、面白かったし、胸が締め付けられるし。そういう思いを語るだけで十分なのかもしれない。傑作だと思いました、はい。