- 作者: 大薮春彦
- 出版社/メーカー: 角川書店
- 発売日: 1986/02
- メディア: 文庫
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闇を切り裂く一閃の銃火に、男たちの咆哮が刻まれてゆく。壮絶な闘いの果てに、人間の情念を浮き彫りにする大藪春彦ハード・アクション屈指の名作、ここに堂々の登場。(粗筋紹介より引用)
1961年8月、徳間書店から刊行された作品の文庫化。
『凶銃ルーガーP08』の続編である連作短編集。前作よりもより凶暴に、より破壊的に、そしてより破滅的に男の生き様が描かれてゆく。時には筆の走り過ぎとも思える凶暴性が見られるが、それもまた大藪の怒りの現れであろう。心の奥底からわき出る怒りこそが、大藪春彦に筆を取らせる原動力なのだから。
「戻り道はない」は、元四回戦ボクサーの19歳のチンピラが、バーテンとして働いているバーのホステスを助けたところから始まる。そのホステスは、前作「穢れたバッジ」の主人公である警部補の女であった。その女が現場から拾ったというルーガーP08を奪い取ったチンピラは、恐れを知らぬ殺しで一気に成り上がる。もちろん、成り上がりものの運命は決まっているが、そのタイトル通り、戻り道を閉ざされた若い男の爆発力が、凶銃を手に取って変わってしまった男の凄まじさを物語る。
「若者の墓場」は前作の男が載っている車と衝突したダンプに助手席に乗っていた夜間高校三年生の若者が、上流家庭の子息が結成している不良グループに誘われ暴れまくる。この不良グループというのは、たぶん当時を騒がしていたのだろう。時事ネタを自作に取り入れるのは大藪の十八番である。高校の描写や、不良高校生の描写はちょっと珍しく、シリーズでも異色作品に仕上がっている。
「死を急ぐ者」は、前作結末の現場で拳銃を拾った若者が、暴力団所属の幼なじみを偶然拾ったところから、裏切り者を捜す暴力団との争いに巻き込まれる。このシリーズでは珍しい巻き込まれ型。ただ、拳銃を拾ったことでより共謀になっていく姿は変わらない。
「凶銃の最期」は、前作の犯人が家の庭に逃げ込んで絶命してしまい、親の遺産を食いつぶした若者が拳銃を手にとってしまったことから事件を引き起こす。連載に疲れて投げやりになったのか、心理描写も今ひとつで、結末はあっけない。
大藪の作品は、竜頭蛇尾というと失礼になるが、結末はあっさりしすぎていることが多い。この連作もそんな印象を受ける。凶銃の終わり方など、もっとページを割いてもよかったはずだ。それでも、あっさりと命を散らしてしまうのが大藪春彦のダンディズムなのかもしれない。主役は潔く身を引く。そこに余計な感情は必要がない。感情を持ち合わせていないはずの凶銃が、様々な人間の運命を狂わせ、高笑いし、そして最期は自らが狂い咲きするのだ。