平穏無事な日々を漂う〜漂泊旦那の日記〜

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市川憂人『神とさざなみの密室』(新潮社)

神とさざなみの密室

神とさざなみの密室

 

  和田政権打倒を標榜する若者団体「コスモス」で活動する凛は、気付くと薄暗い部屋にいた。両手首を縛られ動けない。一方隣の部屋では、外国人排斥をうたう「AFPU」のメンバー大輝が目を覚ましていた。二人に直前の記憶はなく、眼前には横たわる死体。誰が、何のために、敵対する二人を密室に閉じ込めたのか? そして、この身元不明死体の正体は? 真の民主主義とは何か? 人は正しい道を選べるのか? 日本はどこへ向かっているのか?(帯より引用)
 2019年9月、新潮社より書き下ろし刊行。

 

 国民黎明党の和田要吾が首相になって8年。悲願の憲法改定に向け、国民投票法を改定しようとしていた。反対運動を続ける「コスモス」の主要メンバー、大学二回生の三廻部凜。在日外国人を糾弾する「AFPU」のメンバーでありネトウヨでもある渕大輝。二人は隣り合う密室に閉じ込められていた。それぞれの目の前には、顔の焼けただれた、身元不明の死体。
 〈マリア&漣〉シリーズとは異なり、現実に即した世界観。モデルはあの人でしょ、というのがすぐにわかってしまう世界観もどうかと思うし政治団体にしても同様。登場人物の思想にしても薄っぺらさしか見えてこないのだが、まあ政治小説ではないし、今時の若者を取り上げるのなら逆にこれぐらいのほうがいいのか。だけどそれが小説の半分ぐらいまで読まされるのはきつすぎる。もっと手短にまとめられなかったのか。帯の「この部屋と、民主主義という密室から脱出せよ!」は煽りすぎ。作者の意図は入っていないと信じたいが、民主主義が密室なら、社会主義になるしかないんだぞ(ってのも違うか)。
 密室の謎については、偶然の要素に頼っていて面白くない。犯人の設定もどうかと思うが、スマホがつながっていて、凜のフォロー相手で顔も素性も知らないネット論客が事件の謎を解くという設定も、不確実すぎる。まあ犯人から見たら凜や大輝がどうなるかなんて考えているわけでもないだろうし、“本格ミステリの謎解き”のようになってしまうのも意図しないことだろうから、それを言っちゃおしまいなんだろうが。謎を解く人物も消去法で予想がつくのだが、違和感しか残らないのも残念。あえて皮肉な部分を足そうとしたのだろうけれども。
 言っちゃえば、こんな本格ミステリは読みたくなかった。なんというか、痛い。それもミステリ以外の部分が特に。シチュエーションの選択ミス。それに尽きる。