平穏無事な日々を漂う〜漂泊旦那の日記〜

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伊坂幸太郎『モダンタイムス』上下(講談社文庫)

モダンタイムス(上) (講談社文庫)

モダンタイムス(上) (講談社文庫)

 
モダンタイムス(下) (講談社文庫)

モダンタイムス(下) (講談社文庫)

 

  恐妻家のシステムエンジニア渡辺拓海が請け負った仕事は、ある出会い系サイトの仕様変更だった。けれどもそのプログラムには不明な点が多く、発注元すら分からない。そんな中、プロジェクトメンバーの上司や同僚のもとを次々に不幸が襲う。彼らは皆、ある複数のキーワードを同時に検索していたのだった。(上巻粗筋紹介より引用)
 5年前の惨事――播磨崎中学校銃乱射事件。奇跡の英雄・永嶋丈は、いまや国会議員として権力を手中にしていた。謎めいた検索ワードは、あの事件の真相を探れと仄めかしているのか? 追手はすぐそこまで……大きなシステムに覆われた社会で、幸せを掴むには――問いかけと愉しさの詰まった傑作エンターテイメント!(下巻粗筋紹介より引用)
 『モーニング』2007年18号~2008年26号連載。2008年10月、講談社より単行本刊行。加筆修正のうえ、2011年10月、文庫本刊行。

 長編『魔王』の50年後の設定ということだが、別にそれを知らなくても十分に楽しめることができる。というか、私自身、『魔王』は読んでいない。ということで、舞台は現代から50年後の設定。憲法は改正され、日本は軍隊を持ち、徴兵制がある。タイトルからチャップリンの映画が頭に浮かぶが、その影響が所々に出ている。
 システムエンジニアの渡辺がプログラムの仕様変更を請け負うが、ある複数のキーワードを検索すると次々に不幸なことが起きるという設定。それだけならよくありそうな設定だが、何の関係もないキーワードの組み合わせによる検索をするとトラブルが舞い降りるというのは秀逸。そこから謎はどんどん膨らんでいく。インターネットが絡むと、何でもできるんだよなあ、などと思わせてしまうところが、現代ならではか。
 メッセージ色が強い作品だが、読んでいるうちにそうそう、と頷いてしまうところは、やはり作者の筆の力だろう。
 スピーディーな展開で、場面の切り替えも巧く、週刊誌連載らしいテンポの良さがあり、ぐいぐい読むことができる。ただ、割り切れないところはあるキーワードで誤魔化している部分は説得力に欠ける。手が止まることはないのだが、やっぱり読み終わってしっくりこないのも事実。また、全然説明できていないところもある。渡辺の妻の言動なんか、いったいなんだったんだろうと思ってしまう。そういう不条理さ、わけのわからなさが伊坂の持ち味と言ってしまえば、それまでだが。デビュー作もそうだったし。
 まあ、面白かったとはいえるかな。少なくとも、同時期に書かれた『ゴールデンスランバー』よりは好き。