平穏無事な日々を漂う〜漂泊旦那の日記〜

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鮎川哲也『こんな探偵小説が読みたい―幻の探偵作家を求めて』(晶文社)

夏季休暇を翌日に控えた大学図書館で、ひとりの女性が書庫に閉じ込められた。鉄とコンクリートで固められた密室のなかで、彼女は必死に脱出をはかり、外部との連絡を試みるが―。奇篇『墓』の阿知波五郎をはじめ、一読忘れがたい名作を書きながら、いつしか表舞台から姿を消していった12人の作家たち。その生涯を追跡したエッセイと、いまなお新鮮な光芒をはなつ実作品との二本立てでおくる、好評『幻の探偵作家を求めて』第2弾。(粗筋紹介より引用)

『EQ』1989年7月号〜1991年5月号連載。1992年9月、単行本刊行。



鮎川のライフワークの一つともいえる「幻の探偵作家を求めて」シリーズ第二弾。ちなみに収録されている作家と作品は以下。
  • 今様赤ひげ先生・羽志主水 「監獄部屋」
  • 実直なグロテスキスト・潮寒二 「蚯蚓の恐怖」
  • 夭折した浪漫趣味者・渡辺温 「可哀想な姉」
  • ただ一度のペンネーム・独多甚九 「網膜物語」
  • 初の乱歩特集を編んだ・大慈宗一郎 「雪空」
  • 『Zの悲劇』も訳した技巧派・岩田賛 「里見夫人の衣裳鞄(トランク)
  • 『宝石』三編同時掲載の快挙・竹村直伸 「風の便り」
  • 草原(バルガ)に消えた郷警部・大庭武年 「牧師服の男」
  • 名編集長交遊録・九鬼紫郎 「豹介、都へ行く」
  • 医学博士のダンディズム・白井竜三 「渦の記憶」
  • 「『宝石』新人賞大貫進の正体・藤井礼子 「初釜」
  • 『めどうさ』に託した情熱・阿知波五郎 「墓」

渡辺温のような有名どころがあれば、大慈宗一郎のように全く聞いたことが無かった作家もあり。収録作品だが、「監獄部屋」「可哀想な姉」のように時代を代表するアンソロジーに含まれているものもあれば、今読むとかなりきついものもあり。凄かったのは『墓』だろうか。何とも言えない奇妙な作品である。
検索してみると、『EQ』連載時に収録された作品と、単行本に収録された作品で違うようだが、それはなぜだろう(同じなのは羽志主水、独多甚九大慈宗一郎、大庭武年のみ)。

このシリーズ、単行本としてまとめられていないものも多いので、ここらで完全版が出ないかな。最近は論創社から、今までだった有り得ないような作家まで多く纏められているとはいえ、やはりこのシリーズは日本のミステリ史を語るうえで欠かせないものだと思うので。