平穏無事な日々を漂う〜漂泊旦那の日記〜

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矢作俊彦+司城志朗『犬なら普通のこと』(早川書房 ハヤカワ・ミステリワールド)

犬なら普通のこと (ハヤカワ・ミステリワールド)

犬なら普通のこと (ハヤカワ・ミステリワールド)

暑熱の沖縄。ドブを這い回る犬のような人生。もう沢山だ――ヤクザのヨシミは、組で現金約2億円の大取引があると知り、強奪計画を練る。金を奪ってこの島を出るのだ。だが襲撃の夜、ヨシミの放った弾は思いがけない人物の胸を貫く。それは、そこにいるはずのない組長だった。犯人探しに組は騒然とし、警察や米軍までが入り乱れる。次々と起こる不測の事態をヨシミは乗り切れるのか。血と暴力の犯罪寓話。(粗筋紹介より引用)

『ミステリマガジン』2009年6月号〜10月号連載。大幅に加筆修正し、2009年10月、早川書房より単行本刊行。



矢作+司城コンビと言えば、やはり『暗闇にノーサイド』。他にも『ブロードウェイの戦車』『海から来たサムライ』を上梓するも、単独の仕事の方が忙しくなったか、合作は書かれなくなった。本作は25年ぶりの新作。沖縄を舞台にしたノワールものである。

沖縄のヤクザの裏事情が、本土では見られない沖縄ならではのものがある。さらに沖縄ならではの暑さが作品世界を覆っており、そこから脱出しようとする者たちの汗がにじみだしてきているかのようだ。それでいてどことなく洒脱な会話は作者ならではだと思うし、最後のドンパチから始まる怒涛の展開もさすがと言いたくなる巧さである。視点がヨシミとその舎弟の彬、そしてヨシミの妻の森の3人が中心で書かれており、ところどころでは彼らを取り巻く人物の支店にも切り替わる。それぞれの視点によって互いの印象が変わる点は思わずうなってしまった。

展開が目まぐるしく、ちょっと戻らないと着いていけないところがあった。これって、年を取った証拠かな。