- 作者: 米澤穂信
- 出版社/メーカー: 東京創元社
- 発売日: 2015/07/29
- メディア: 単行本
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2015年7月、書き下ろし刊行。
主人公の太刀洗万智は『さよなら妖精』の登場人物の一人とのことだが、『さよなら妖精』はまだ読んでいない。もっとも読んでいなくても全く問題は無かったが。
2001年6月1日に実際に起きたネパール王族殺害事件を舞台としつつも、万智が巻き込まれた殺人事件の方に視点は移っていく。
殺人事件の方はそれほど深い謎というわけでもない。ある登場人物のやり方があまりにも露骨だし、万智が気付くのがあまりにも遅いと思ったぐらいだ。ただ、万智が導かれた謎の方は、結構重いテーマを持っている。割と露骨に書かれているので何となくそうなんだろうなあ、とは途中で思ったものの、実際に活字で見せつけられると、ちょっと考えるものがある。
本作品の主題となるテーマはメディア・リテラシーであり、万智がそれにどう向かうかと言ったことにある。タイトルの「王とサーカス」はなかなかうまい表現だと思った。
ただ、それを前面に出すためとはいえ、実際の、しかも未だに謎が残っている事件を導入部にすべきではなかったと思う。読者にとっての大きな謎はやはりこちらだろう。いくら作者の筆がうまく誘導しているとはいえ、読み終わってみても大きな謎の方が取り残されている違和感は拭えない。私が単に無知なせいかもしれないが、ネパール王族殺害事件があまり知られていない事件であったため、フィクションなのかどうかがわからない読者はどうしてもそちらの謎に引っ張られてしまう。もちろん実際の事件であり、おいそれと解答を出すわけにはいかないのはわかっているのだが。だからこそ編集部も、粗筋の部分でわざわざ「実際に起きた」と注釈を入れているのであろう。
悪くはないのだが、どことなくちぐはぐな感じを抱いた作品だった。やはりジャーナリストは、でかい事件の方を追いかけるのではないか。そんな単純な疑問が、最後まで解消されなかった。