平穏無事な日々を漂う〜漂泊旦那の日記〜

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米澤穂信『王とサーカス』(東京創元社)

王とサーカス

王とサーカス

二〇〇一年、新聞社を辞めたばかりの太刀洗万智は、知人の雑誌編集者から海外旅行特集の仕事を受け、事前取材のためネパールに向かった。現地で知り合った少年にガイドを頼み、穏やかな時間を過ごそうとしていた矢先、王宮で国王をはじめとする王族殺害事件が勃発する。太刀洗はジャーナリストとして早速取材を開始したが、そんな彼女を嘲笑うかのように、彼女の前にはひとつの死体が転がり……。「この男は、わたしのために殺されたのか?あるいは―」疑問と苦悩の果てに、太刀洗が辿り着いた痛切な真実とは? 『さよなら妖精』の出来事から十年の時を経て、太刀洗万智は異邦でふたたび、自らの人生をも左右するような大事件に遭遇する。二〇〇一年に実際に起きた王宮事件を取り込んで描いた壮大なフィクションにして、米澤ミステリの記念碑的傑作!(粗筋紹介より引用)

2015年7月、書き下ろし刊行。



主人公の太刀洗万智は『さよなら妖精』の登場人物の一人とのことだが、『さよなら妖精』はまだ読んでいない。もっとも読んでいなくても全く問題は無かったが。

2001年6月1日に実際に起きたネパール王族殺害事件を舞台としつつも、万智が巻き込まれた殺人事件の方に視点は移っていく。

殺人事件の方はそれほど深い謎というわけでもない。ある登場人物のやり方があまりにも露骨だし、万智が気付くのがあまりにも遅いと思ったぐらいだ。ただ、万智が導かれた謎の方は、結構重いテーマを持っている。割と露骨に書かれているので何となくそうなんだろうなあ、とは途中で思ったものの、実際に活字で見せつけられると、ちょっと考えるものがある。

本作品の主題となるテーマはメディア・リテラシーであり、万智がそれにどう向かうかと言ったことにある。タイトルの「王とサーカス」はなかなかうまい表現だと思った。

ただ、それを前面に出すためとはいえ、実際の、しかも未だに謎が残っている事件を導入部にすべきではなかったと思う。読者にとっての大きな謎はやはりこちらだろう。いくら作者の筆がうまく誘導しているとはいえ、読み終わってみても大きな謎の方が取り残されている違和感は拭えない。私が単に無知なせいかもしれないが、ネパール王族殺害事件があまり知られていない事件であったため、フィクションなのかどうかがわからない読者はどうしてもそちらの謎に引っ張られてしまう。もちろん実際の事件であり、おいそれと解答を出すわけにはいかないのはわかっているのだが。だからこそ編集部も、粗筋の部分でわざわざ「実際に起きた」と注釈を入れているのであろう。

悪くはないのだが、どことなくちぐはぐな感じを抱いた作品だった。やはりジャーナリストは、でかい事件の方を追いかけるのではないか。そんな単純な疑問が、最後まで解消されなかった。