- 作者: 米澤穂信
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 2008/11
- メディア: 単行本
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『小説新潮』他に掲載。書下ろし1編を加え、2008年11月、単行本刊行。
5歳の時の孤児院から丹沢家に引き取られた村里夕日は、令嬢の吹子のお世話をする。読書家の吹子に引き寄せられるように、夕日も隠し書棚にあるミステリ等を読むようになる。吹子は大学入学後、「バベルの会」という読書会に入る。秘書を兼ねての泊りがけの読書会がある2日前、素行不良で勘当された兄・宗太が邸を襲撃する。「身内に不幸がありまして」。
六綱家前当主・虎一郎の愛人だった母が死に、内名あまりは六綱家の別巻、通称「北の館」に住み、当主・光次の兄、早太郎の世話をすることになる。早太郎は部屋を出ることを許されていなかった。三か月後、あまりは外に出ることを許されるようになると、早太郎はビネガー一瓶、画鋲、糸鋸など、何に使うかわからない物を買物に頼む。「北の館の罪人」。
貿易商、辰野家が八垣内に持つ別荘「飛鶏館」の管理人として雇われる。しかし辰野の妻が病死したため、飛鶏館には誰も客が訪れなかった。厚保日、猟銃を持って熊の見回りに出ている途中、崖下に倒れていた登山者を救出する。「山荘秘聞」。
高大寺の権力者である小栗家のたった一人の子供である純香は15歳になった時、玉野五十鈴という使用人を与えられた。純香は大学へ進み、バベルの会に属するも、婿養子である父の伯父が強盗殺人事件を犯したため、絶対権力者である祖母によって両親は離縁させられ、純香は家に引き取られる。「玉野五十鈴の誉れ」。
サンルームに残されていた日記には、「バベルの会はこうして消滅した」と書かれていた。伝説の相場師と呼ばれた祖父によって財を築いた大寺家の娘・鞠絵は、バベルの会に入るものの、会費未払いという理由で辞めさせられる。5月、見栄っ張りの父により、大寺家に宴の料理を専門に作る厨娘の夏が雇われる。夏は見習いで文という女の子を連れていた。「儚い羊たちの晩餐」。
時代設定は書かれていないが、昭和三十年代あたりだろうか。「バベルの会」に関連する人物が全編登場するが、「バベルの会」自体が話の主眼となっているわけではない。いずれも上流階級が舞台となっている。
必ずしもラスト一行で落ちるわけではないが、確かにラスト一行のインパクトはなかなか。ブラックユーモアというか、奇妙な味というか、藤子不二雄Aのブラック短編に通じるエンディングの切れ味はかなりのもの。特に「儚い羊たちの晩餐」は怖い。これ、スタンリイ・エリンを知っていたら、より恐怖が倍増するかも(知らなくても十分怖いが)。
登場人物を皆上流階級にすることで、少々突飛な行動や思考などもストレートに入ってくるところも巧い。どれも結末をぼかしながらも、頭の中で想像できるようになっているところも流石。これは傑作短編集だった。
考えてみると、米澤穂信作品で、初めて素直に面白いと思ったぞ。