平穏無事な日々を漂う〜漂泊旦那の日記〜

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リチャード・マシスン『奇術師の密室』(扶桑社ミステリー文庫)

奇術師の密室 (扶桑社ミステリー)

奇術師の密室 (扶桑社ミステリー)

往年の名奇術師も、脱出マジックに失敗し、いまは身動きもできずに、小道具満載の部屋の車椅子のうえ。屋敷に住むのは、2代目として活躍する息子と、その野心的な妻、そして妻の弟。ある日、腹にいち物秘めたマネージャーが訪ねてきたとき、ショッキングな密室劇の幕が開く! 老奇術師の眼のまえで展開する、奇妙にして華麗、空前絶後のだまし合い。息も継がせぬどんでん返しの連続。さて、その結末やいかに――鬼才マシスンが贈る、ミステリーの楽しさあふれる殺人悲喜劇。(粗筋紹介より引用)

1994年、刊行。2006年7月、邦訳刊行。



スピルバーグの映画『激突』の原作「激突!」や、『トワイライトゾーン』などのシナリオライターとしても有名なマシスンによる、書き下ろし長編ミステリー。「偉大なるデラコート」とかつて呼ばれたエミール・デラコートが語り手だが、脳溢血によって身動きが全くできない植物人間状態。本作品でも車椅子に座ったまま、ただ見ているだけである。マサチューセッツ州の屋敷にある、息子である二代目デラコート、マックス・デラコートが増やした奇術の小道具などで満載のマックスの書斎、マジックルームで繰りひろげられる密室劇。登場人物はマックス、妻のカサンドラカサンドラの弟のブライアン・クレイン、マックスのマネージャーであるハリー・ケンダル、そして保安官のグローヴァー・プラム。

最初からマジックルームの装飾など細かい点が書かれているのだが、それでも不思議とくどさを感じないのは作者の腕だろう。マックス、カサンドラ、ブライアン、ハリーとたった4人しかいないのに、どろどろとした人間模様と、それを彩るマジックが披露され、そして殺人劇が開幕する。たった一人の観客は車椅子のうえ、そしてプラムが登場してからは、奇術の舞台らしいどんでん返しがこれでもかとばかりに繰り広げられる。

わずかな登場人物で、よくぞこれだけどんでん返しが続くものだと感心。全く持って、何が真実で、何がフェイクかさっぱりわからないまま、作者に翻弄されてしまった。読み終わって、そう着地するのか、と唖然としてしまった。

これは素直に作者に脱帽しよう。面白かった。