平穏無事な日々を漂う〜漂泊旦那の日記〜

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石持浅海『彼女が追ってくる』(祥伝社 ノン・ノベル)

彼女が追ってくる (碓氷優佳シリーズ)

彼女が追ってくる (碓氷優佳シリーズ)

<わたしは、彼女に勝ったはずだ。それなのに、なぜ……>

中条夏子は、かつての同僚で親友だった黒羽姫乃を刺殺した。舞台は、旧知の経営者らが集まる「箱根会」の夜。愛した男の命を奪った女の抹殺は、正当な行為だと信じて。完璧な証拠隠滅。夏子には捜査から逃れられる自信があった。さらに、死体の握る“カフスボタン”が疑いを予想外の人物に向けた。死の直前にとった被害者の行動が呼ぶ、小さな不協和音。平静を装う夏子を、参加者の一人である碓氷優佳が見つめていた。やがて浮かぶ、旧友の思いがけない素顔とは。(粗筋紹介より引用)

2011年10月、書き下ろし。碓氷優佳シリーズ最新刊。



『扉は閉ざされたまま』『君の望む死に方』に続く、碓氷優佳シリーズ三作目。というか、このシリーズはそういう名前だったんだ。

倒叙もの、警察介入前の決着といったシリーズの特徴は、本作でも継承されている。今回は既に死んでしまった、同じ男を愛した女二人の片方が犯人で有り、片方が被害者である。私自身は、女はリアリストで、既に掴むことのできないかつての幸福や夢より、目の前にある現実的なベターライフを選ぶものと思い込んでいるのだが、そう言いつつもミステリでは、女による復讐が動機となっている作品が多いことも事実。一生わからない部分だろうな、きっと。

事件が起きてからでも繰り広げられる、女同士の心理戦。誰もが親友同士と思っていた二人による、女ならではの戦い。怖いと言えば怖いが、それを冷静に見つめ、介入しつつ、最後は突き放す碓氷優佳という人物はもっと恐ろしい。しかし、優佳の絡む理由が不鮮明である点が、この小説の物足りない部分だと思う。圧倒的な勝利者でもあるにかかわらず、傍観者に徹する理由はなんなのか。女という生物の本当の恐ろしさは、ここにあるのかもしれない。

作者の言う「犯人と被害者との誰よりも濃い関係」というよりも、女性同士の心理闘争という作品。怖いと言えば怖いが、今一歩で終わった感もある。この不満感はどこにあるのだろう。

どうでもいいけれど、優佳は婚約者と一緒に住んでいるんだ。実は別の人物だったら驚きなんだけど、それはないだろうな。