平穏無事な日々を漂う〜漂泊旦那の日記〜

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鮎川哲也『王を探せ』(光文社文庫)

だから、どの亀取二郎が犯人なんだ!? ――その亀取二郎は、二年前の犯罪をネタに恐喝されていた。耐えきれず、彼は憎き強請屋・木牟田を撲殺する……。警察が被害者のメモから掴んだのは、犯人が「亀取二郎」という名前であること。だが、東京都近郊だけで同姓同名が四十名。やっと絞りだした数人は、みなアリバイをもつ、一筋縄でいかない亀取二郎ばかり。鬼貫・丹那のコンビが捜査するなか、犯人は次なる兇行に及ぼうとしていた!(粗筋紹介より引用)

野性時代』1979年4月号に中編「王」として発表。1981年12月、加筆改題の上、カドカワノベルズより刊行。1987年7月、講談社文庫化。2002年5月、光文社文庫化。



2年前、子供を車で跳ねて死亡させた上、河原に埋めた亀取二郎が、犯行現場を見ていた何でも評論家の木牟田盛隆に脅迫されて毎月金を払っていたが、耐えきれなくなり、殺害。デスクの卓上ダイアリーに亀取二郎との約束が書かれていたことから犯人の名前はすぐわかったが、目撃者の証言から同姓同名4人が容疑者として残るも、皆アリバイを持っていた。捜査中、無職の河井晩介がアリバイは偽であると証拠の写真を持ってきて亀取を脅迫。亀取は河合を殺害した。河合が残したダイイングメッセージは「王」。

"亀取二郎"という聞き慣れない名前が都内に40人もいるか、とかの突っ込みは作者もわかっていたことだろうからいいが、計画殺人だからデスクのメモぐらい気づきそうなものだと思うし、ダイイングメッセージだってチェックしそうなものだ。この奇妙な設定を生かそうとする点が、あまりにも作り物めいていて、興味を削いでいる。

4人のアリバイを聞いた時点で、誰が犯人かわかってしまうところが非常に残念。となると後はどうやってそのアリバイを崩すかなのだが、ちゃちすぎて呆気にとられてしまう。5人目の"亀取二郎"が出てくる点も、警察ならすぐに調べられるだろうと突っ込みたいのだが、それは置いておくと、こちらのアリバイが見破られてしまう話の方がまだ楽しめた。

実質5人の容疑者が同じ名前という点が趣向といえば趣向なのだが、別に名前の取り違いによる混乱などがあるわけではないし、同姓同名を使ったトリックがあるわけでもないので、別の名前で5人の容疑者を挙げても大して差がない。タイトルは第二の殺人におけるダイイングメッセージからなのだろうが、はっきりいってこじつけに近いもので、さして面白くもないし、すぐに解かれてしまうため、タイトルに持ってくる必然性にも欠けている。

まあ、鮎川が書いたから、と褒める人がいるかもしれないが、はっきりいって凡作。鮎川哲也、老いたり、という作品であった。