- 作者: 樋口有介
- 出版社/メーカー: 東京創元社
- 発売日: 2011/04/21
- メディア: 単行本
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あの柚木草平の愛娘・加奈子の探偵行と淡い恋心を瑞々しい筆致で描く、爽やかな余韻が秀逸なミステリ。(粗筋紹介より引用)
『ミステリーズ!』Vol.39〜45に連載された作品を加筆、修正。
柚木草平シリーズ番外編の一作……って、柚木シリーズっていつの間にか9作も出ていたんだ。知らなかった。他の作品も色々と創元推理文庫に収録されているし、この人のことが好きな編集者がいるんだろうなあ。そういえば『風少女』のころは、一番直木賞に近いミステリ作家、なんて書かれ方をしていたけれど、今のところ結局取れていない。こういう爽やか系の作風は無理なのかね、結局。軽いとか見られるのかなあ……。実際はそんなことないと思うのだが。
とはいえ本作品は小学六年生の加奈子が主人公ということもあり、小学生の視点で物語は進むこともあり、それを意識した書き方になっている。いくら加奈子が大人びているとはいえ、そうするのは当然のことなのだが、もどかしい部分があるのは事実。実際、柚木が調べるだけで事件が解決していることもあり、警察が手間取っているのはちょっと首をひねるところもある。
まあ本作品は、加奈子が主人公というところの雰囲気を味わうところが最大の魅力なのだから、事件の難易度についてどうのこうのいうところは少々野暮な話だろう。樋口有介が書くと、どうしても「大人の視点で描いた小学生」になっている部分があるのは否めないが、そこが物語としてはまた楽しいところでもある。
物語の途中で柚木は、加奈子がどんどん母親に似てきているところを嘆くシーンがあるが、十分に父親に似ているところもあるんじゃないかな。友達思いの部分や、心の中ではなんだかんだ言いながらも、付き合いの良いところはどうみても父親似だと思うけれどね。それにしてもあんな父親を持ったら、男に対する評価はかなり厳しくなると思うのだが、恋は全然関係ないのかね。どう見ても苦労しそうな翔児に恋心を抱くなんて。あ、それは母親似なのか。
これ単独で読んでも大丈夫だろうが、やはりこの作品はシリーズを読んできた人に向けて書かれた作品。柚木シリーズを一冊でも読んだことがあるというのなら、読んでみた方がよい。