- 作者: 丸山天寿
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2010/06/08
- メディア: 新書
- 購入: 1人 クリック: 17回
- この商品を含むブログ (13件) を見る
2010年、第44回メフィスト賞受賞。同年6月、講談社ノベルスより刊行。
著者は陸上自衛隊勤務を経て、古書店を経営。ライフワークである邪馬台国研究を進めるうち、本書を着想し、執筆。56歳の受賞は、同賞最高齢である。田中芳樹が推薦文を書いている。
舞台はなんと始皇帝時代の中国。琅邪は、中国大陸の東端・山東半島にある「あやかしの町」と呼ばれた小さな港町である。琅邪のはるかな海上には、煌びやかな高楼や屋敷が立ち並ぶ「浮島」が時に出現し、誰も辿り着くことができない。人々は仙薬を飲む「神仙」たちが住む島であると信じていた。主人公の希人は、琅邪の求盗(警察官)である。
新興商家・西王家の家宝・壁の盗難。古くからの商家である東王家で、美人姉妹の妹が婚儀直前で失踪。姉の部屋の長持ちから出てきた妹の死体。さらに葬儀中に妹が甦って失踪。連続自死に謎の死体。有り得ない懐妊。西王家の人間・財産・家財道具が一夜で消滅。成長する死体。
いやはや、事件が起きるにしても多すぎるだろう、と言いたくなる。秦を舞台にした伝奇ミステリかと思わせたら、なぜか剣の戦いが挟まれ、徐福の弟子、無心が最後に一気呵成に謎を解く。ここで初めて、本書が本格ミステリであることに気づかされた。
それにしてもサービス旺盛な作品。これだけ謎と活劇がてんこ盛りになった作品も珍しい。それでいて、この重みの無さは何だろう。この軽さは読みやすさにつながっているとは思うが、それにしても時代性があるとはいえ、大事なことがどんどんスルーされて物語が進むというのもどうかと思わせるが、活劇なら仕方のないことか。
謎解き自体は一応整合性が取れていると思われるが、正直そこまで吟味する気力は無い。事件の数が多すぎて、そこまで見切れないというのが本音。しかも解決が最後の方でやや強引に行われるものだから、一気呵成に流されてしまった感がある。正直言って、かなり苦しい感もあるが。
最後に無心の正体が暴かれ、読者はアッということになるのだが、これは少々見え見えだった。
作者が言うようにサービス旺盛な作品。旺盛すぎて、逆に軽くなってしまった感があるが、娯楽と徹して読む分にはこの軽さも悪くない。秦時代の中国の描き方も悪くないし(もうちょっと圧政だったイメージがあるのに、そこが書かれていないのはやや不満だが)、この時代の作品が好きな人にはお勧めできるかも。