- 作者: 井上真偽
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2015/09/10
- メディア: 新書
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2015年9月、書き下ろし刊行。
メフィスト賞を受賞してデビューした井上真偽の長編第二作。
新興宗教団体の信者のみが集まった閉ざされた村で、信者30人が教祖に斧で首を斬られて死亡し、最後に教祖は焼死した。集団自殺した中、唯一生き残った少女は、仲の良かった少年が首を斬り落とされながらも少女を抱きかかえて祠まで運んだとしか思えない、と語る。その謎解きを依頼された探偵の上笠丞は奇跡と認定するが、それを否定する者たちが次々に現れ、仮説を立てていく。
多重解決ものであるものの、奇跡の存在を証明するために動いている探偵が「すべてのトリックが不成立であることを立証する」ために推理するという設定が、バカバカしいけれど面白い。特に「その可能性はすでに考えた」という決め台詞は、どこかで流行語になってもおかしくないぐらい、はまった言い回しである。ただ、肝心の中身の方だが、上笠の敵側の人間が突拍子もない、いわゆるバカミスみたいなトリックを提示し、上笠がそれを否定する、という展開の繰り返しでしかない。そんなワンパターンを避けるために、敵(?)側とのやり取りに色々工夫を凝らしているが、それがかえって推理の楽しみを削いでいる感がして仕方がない。
とはいえ、こんなバカバカしいシチュエーションを真面目に本格ミステリとして仕上げている剛腕ぶりは面白い。結末があまりにもしょぼい終わり方だったのが非常に残念だが、途中までは楽しめた。結末であっと言わせられる解決を提示できるようであれば、傑作になる可能性があった。