- 作者: 井上真偽
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2016/07/07
- メディア: 新書
- この商品を含むブログ (10件) を見る
2016年7月、書き下ろし刊行。
『その可能性はすでに考えた』で話題となった作者のシリーズ続編。作者紹介のところで、本作は「続編」と明確に謳われていたが、実は前作を読んでいない。某氏より昨年では一番傑作だったと聞いたので、読んでみることにした。前作を読んでいないでも、どうにかなるだろうと思いつつ。奇蹟の存在を証明しようとする探偵・上苙丞や元中国黒社会の幹部である中国人美女のヤオ・フーリン、上苙の元弟子で、頭脳明晰な少年探偵である八ツ星聯といった個性的すぎるキャラクターを把握するのに少々手間取ったが、途中からはそれほど気にならず、読み進めることができた。
「聖女伝説」といっても、結構怖いもの。美しい娘のカズミ様を殿様が見初め、城に召し上げようとしたが断られたため立腹し、娘の父親である家臣に命じてしかりつけ、無理やり連れてこさせた。娘は七日七番泣き明かした後、殿様の前に姿を現し、城下の庭園で開く茶席に殿様たちを招く。娘は庭で育った夾竹桃の小枝を似た湯で茶を淹れ、夾竹桃から出てきた毒で参加した両家の男衆を皆殺しにした、という話である。事件は、悪徳不動産屋に騙され娘を差し出した結婚式で事件が起こる。同じ盃を回し飲みした八人のうち両家の男だけ三人(+犬)だけが殺害されるという不可能犯罪だったが、それをめぐって残された者たちや八つ星による仮説が立ちあげられ、推理が繰り広げられる。
まあ、これだけだったら不可能犯罪の内容はともかく、単なる推理合戦だったのだが、第一部で衝撃的な告白があり、さらに第二部では容疑者たちがとある人物たちの前に集められ、フーリンたちは誰が犯人かを見つけなければならなくなる。このスリリングな展開は、かなりの無茶があるとはいえ、面白い。まあ、容疑者たちを一編に連れてきてしまったら、警察がどう反応するのか気になるところだが。
ただ残念なのは、事件のトリックが、仮説も含めてちゃちなものが多すぎること。特に真相については、まず最初に考えそうなものなのに、なぜ誰も考えないのだろうと思ったぐらい、唖然としてしまった。ポットのトリックも、かなり苦しい。まあ、バカバカしいトリックを、真面目然として論理で否定するその姿は、逆にコントかと思えてしまった。冒頭からしっかり伏線を張られている点には感心したが。
結局は推理合戦を楽しめるかどうか、という点に本作はかかっているわけだが、推理合戦を繰り広げるシチュエーションのみが面白く、いくら奇跡を証明するためとはいえ、バカバカしいことまで持ち出さなければならない点は興醒め。まあ、本格ミステリのトリックなんてある意味ファンタジーな部分があるのだから、それを含めて楽しめる人だったら、喜びそうな一冊だ。私は駄目だったが。