平穏無事な日々を漂う〜漂泊旦那の日記〜

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城平京『虚構推理』(講談社文庫)

虚構推理 (講談社文庫)

虚構推理 (講談社文庫)

深夜、鉄骨を振るい人を襲う亡霊「鋼人七瀬」。それは単なる都市伝説か、本物の亡霊か? 怪異たちに知恵を与える巫女となった美少女、岩永琴子が立ち向かう。人の想像力が生んだ恐るべき妖怪を退治するため琴子が仕掛けたのは、虚構をもって虚構を制する荒業。琴子の空前絶後な推理は果たして成功するか。(粗筋紹介より引用)

2011年5月、『虚構推理 鋼人七瀬』のタイトルで講談社ノベルスより刊行。2012年、第12回本格ミステリ大賞受賞。2015年12月、改題の上、文庫化。



一応デビューは鮎川賞最終候補作だったが、その後は推理漫画の原作ばかりだったので、この人が小説家というイメージはほとんどない。本作品も、いかにも漫画向きだな、と思った。実際、漫画化されているし。

主人公は、小学五年生の時に妖怪やあやかしなどの「そのもの」達に攫われ、深い山の奥で「智慧の神」になった岩永琴子。知能の低いそのもの達に知恵と力を貸し、争いを鎮め、とりなしてくれる存在となった。ただしその代償として左足の膝下と、右目を失ったが。今では義足をつけ、ステッキをついて歩いている。良家のお嬢様だが、時々柄が悪い喋り方をする。

相方は桜川九郎。予言獣「くだん」の肉と永遠の命をもつ「人魚」の肉を食べ、未来を決定するという「予言」の能力と不死身の肉体をもったが、死の直前でしか、そして起こる可能性の高いごく近い未来しか決定できない。そして死んだあとは、再び甦るのだ。琴子は15歳の時に通っていた病院で20歳の九郎と出会って一目惚れし、17歳の時に彼女と別れた九郎に告白し、19歳の今では恋人関係にある。九郎にはやや邪険に扱われているが。

そしてもう一人の登場人物が、弓原紗季。高校時代から一つ年下の九郎と付き合い、互いの大学卒業後は結婚する予定ですでに結納を交わしていたが、卒業直前の婚前旅行で九郎の力を目の当たりにし、別れた。真倉坂市真倉坂警察署の交通課に勤務して2年半になる。

真倉坂市では「鋼人七瀬」の亡霊が現れていた。元アイドル、七瀬かりんの形を変えた姿である。七瀬かりんはグラビアアイドルから深夜ドラマの主役を経て固定ファンを掴んだが、父を保険金目当てで事故に見せかけて殺害したという噂がネットを通じて流れ、スポーツ紙や週刊誌がその噂を追いかけて騒ぎは大きくなり、七瀬かりんはとうとう仕事を休止し、ホテルを転々とするようになった。約1か月後、真倉坂市の中断された建築現場で、倒れてきた鉄骨に頭を潰され、死亡した。鋼人七瀬は、理不尽なスキャンダルで芸能界を追われ、19歳で死亡したその恨みから誕生したものだと噂された。

都市伝説というものの存在が具体化するプロセスは面白い。ただ、シリーズ化を狙ったとしか思えないキャラクター設定なので、よくあるラノベのつくり方だなとしか思えなかった。「虚構をもって虚構を制する」という手段も面白いが、長年蓄積されてきた「噂」を強引に塗り替えるそのやり方にはやや疑問があるし、そもそもその時点ではそのネットを見ていない人たちの方が多いんじゃないだろうか。強引につじつまを合わせて事件を解決する書き方は、彼の漫画原作作品と変わらない。

そもそも、これ「推理」か? 根本的なところで疑問がある。はっきり言ってしまえば、「創造」だろう。まあ本格ミステリにも、「推理」というよりは名探偵の「創造」としか思えないような事件解決の作品があることだし、これを「推理」と見る人がいるのかもしれない。私はそう見ないが。

いずれにせよ、あざとさが先行して見えてきたし、あまりにも作り物めいているところがあったので、それほど楽しむことが出来なかった。続編を示唆するような引きも、この作品では今一つ。

どうでもいいが、この作品に解説は無し。本そのものが売れないから、そういったところもケチるようになったのか、出版社は。