- 作者: あせごのまん,矢吹申彦
- 出版社/メーカー: 角川書店
- 発売日: 2005/11/10
- メディア: 文庫
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ゆっくりと自分が失われていく恐怖を描く、第12回日本ホラー小説大賞短編賞受賞作。(粗筋紹介より引用)
2005年、「余は如何にして服部ヒロシとなりしか」で第12回日本ホラー小説大賞短編賞受賞。「浅水瀬」「克美さんがいる」「あせごのまん」を収録し、2005年11月、角川ホラー文庫より刊行。
作者だが“あせごの”が姓で、“まん”が名前。最後の作品で由来が出てくるが、阿波と土佐の堺にある阿瀬郷という土地に生まれた男の子の名まえが“まん”というところから来ている。
「余は如何にして服部ヒロシとなりしか」は短編賞受賞作。奇妙と言ったら奇妙だし、異様と言ったら異様。バカバカしいと言ってしまえばそれまでだが、その一言で捨て去るには惜しい作品。“如何にして”ではなく“なぜ”の部分がもっと欲しかったかな。あまり好きにはなれない作品ではあったが。
遅刻して大学院試験に落ちた米田健一。バイクに乗っている途中事故を起こし、目を覚ますと怪我人の健一の横で怪談噺を始める男たち。「浅水瀬」。まあタイトル自体がネタバレだと思うので備忘録の意味で書いてしまうが、“浅水瀬”とは仏教用語で三途の川にある渡し場の一つ。オチが見え見えなのでそこまでをどう持っていくかにかかっているが、ありきたりすぎて楽しめなかった。
ICUに入っていたあの女がとうとう亡くなった。葬儀もあるしと通帳などを探し始めるが、慎治は色々と煮え切らないし、中三の桃子は亡くなったばかりで金の話をするなんてと怒って家を飛び出してしまう。「克美さんがいる」。読んでいて違和感があることから話の落ちは見えてくるが、それでも結末までのストーリーの運び方は秀逸。身につまされる人も多いのではないか。本作品中のベスト。推理作家協会賞の短編賞の候補になったのも納得の出来である。
なかなか子供ができなかった炭焼きの夫婦だったが、里のものから子授け地蔵の事を聞き、毎日お参りしていたらとうとう男の子が生まれた。夫婦はその子供に「万」と名付けたが、半年で歩き出し、川の石は飛び跳ね、大きな木にすたすた上るなど、地蔵の申し子らしい育ち方をした。「あせごのまん」。全編土佐弁で読みにくいのだが、迫力があるのはわかる。ただ、この趣向は失敗だったと思うけれどね。
デビューから全作とも作風が異なるというのは珍しい。作品に出来不出来があるのは仕方がないが、作風を変えてくるのは器用さを見せつける半面、作者の個性が見えてこないという欠点があると思う。とはいえ、表題作みたいな作品を何作も読まされるのは正直言ってきついのだが(苦笑)、せっかくの独特な作風だったのだから、そろえるべきだっただろう。少なくとも作者には、その実力があるように見えたから。