平穏無事な日々を漂う〜漂泊旦那の日記〜

漂泊旦那の日記です。本の感想とサイト更新情報が中心です。偶に雑談など。

叶紙器『伽羅の橋』(光文社)

伽羅の橋

伽羅の橋

介護老人保健施設の職員・四条典座は、認知症の老人・安土マサヲと出会い、その凄惨な過去を知る。昭和二十年八月十四日、大阪を最大の空襲が襲った終戦前日、マサヲは夫と子供二人を殺し、首を刎ねたという――穏やかそうなマサヲが何故そんなことをしたのか?

典座は調査を進めるうちに彼女の無実を確信し、冤罪を晴らす決意をする。死んだはずの夫からの大量の手紙、犯行時刻に別の場所でマサヲを目撃したという証言、大阪大空襲を描いた一編の不思議な詩……様々な事実を積み重ね、典座にある推理が浮かんだそのとき、大阪の街を未曽有の災害・阪神大震災が襲う――!!

時を経た大戦下の悲劇を、胸がすくようなダイナミックな展開で解き明かしてゆく、人間味あふれる本格ミステリー!(帯より引用)

2009年、第2回ばらのまち福山ミステリー文学新人賞受賞。応募時筆名、糸冬了。加筆改稿の上、2010年3月、単行本発売。



ばらのまち福山ミステリー文学新人賞は、広島県福山市主催のミステリ新人賞。同市出身の島田荘司が一人で選んでいるという時点で、作品に期待が持てないのだが、偶々手に入ったので読んでみた。予想通り、島田荘司しか選ばないような中身だった。

戦時下の冤罪を解き晴らそうと若い女性が事件関係者を駆けずり回るのだが、そもそも50年以上も昔の事件関係者が存命で、さらに言えば当時の状況をくわしく話してくれるという時点であまりにも嘘くさく、その展開がただ会話が続くだけという、話の盛り上がりも何もないので、読んでいて退屈で眠くなってくる。選評で島田荘司が「前半は退屈し、読みながら何度も舟をこぐありさまだった」と書くぐらいだからわかるわあ、などと思っていたら、修正して問題点をクリアしたと最後に書いてあったからびっくり。修正してこの退屈さなら、修正前はどんなにひどかったのだろうと目の前が真っ暗になった。前半は半分に整理出来るだろう。それに介護施設の職員って、こんなに時間の余裕があるのか?

阪神大震災が起きて、過去の事件とシンクロさせる手法はなかなかだと思ったが、やはり筆が追い付いていない。この緊急事態に呑気に事件の謎を解き明かしているのだが、この会話中にばあちゃん、着いちゃうんじゃないか。というかこのばあちゃん、どれだけスーパーウーマンなんだよ、と言いたくなる。最初の認知症という設定と、かけ離れすぎ。一応症状が改善されたとは書かれているが、あまりにも違いすぎて首をひねるばかり。それに謎の解き明かしだが、クランクとかあったらどうしていたのだろうと首をひねりたくなる。

社会派的なテーマに、奇想天外なトリックが絡みつくという、島田荘司が好きそうなテーマの作品だが、まあ突っ込みどころ満載。出版するにはまだ早い、と言いたくなる作品だった。