平穏無事な日々を漂う〜漂泊旦那の日記〜

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結城充考『プラ・バロック』(光文社)

プラ・バロック

プラ・バロック

埋め立て地の冷凍コンテナから、14体の凍死体が発見された。整然と並んだ死体は、誰の、どんな意図によるものなのか? 神奈川県警機動捜査隊に所属する女性刑事・クロハは、虚無感と異様な悪意の漂う事件の、深部に迫っていく……。圧倒的な構成力と、斬新なアイディアを評価され、選考委員満場一致で新人賞を受賞した期待の新鋭、渾身の一撃。第12回日本ミステリー文学大賞新人賞受賞作。(帯より引用)

2009年、第12回日本ミステリー文学大賞新人賞受賞。同年3月、単行本刊行。



主人公のクロハユウがカタカナだから近未来の作品かと思ったら、内容は普通に現代の話。被害者は漢字名なのに、他の登場人物はカタカナばかりという異様な表記だが、いったい何の意味があったかは疑問。クロハも普通に「黒羽」という名前があったし。孤高の女刑事という設定も今更という気がするし、「機捜の鋼鉄の処女アイアン・メイデン)」という通り名も古臭い。そもそも「孤高」といっても、単に捜査を指揮するカガの女性蔑視なだけじゃないかという気がする。そのくせ、主人公のキャラ付けが今一つだから、感情移入がしにくい。登場人物のバックボーンが書かれないまま、急激に感情が吐露されるから、余計に始末が悪い。

「全選考委員絶賛」とあるが、序盤は本当に退屈。コンテナから14体も凍死体が発見されれば、いくら集団自殺とはいえ、警察もマスコミももっと騒ぐと思うのだけどねえ……。「仮想空間」での会話などが途中で唐突に織り込まれるし、舞台を把握するのに一苦労。曰くありげなタカハシが中盤に出てきてから、ようやく物語が軌道に乗るのだが、そこからの展開はクロハの暴走が目立つ。警察の一員なのだから、いくら「孤高」とはいえ勝手な行動ばかりであまり気持ちの良いものではない。勝手に動くのなら、その説得力をもっと事前に入れるべきだった。結末もあいまいなところを残したままだし、結局何をやりたかったかよくわからないまま終わってしまった。

雨を上手に生かした描写などは悪くないと思うのだが、「絶賛」するような作品ではないなと思った次第。それでもこれがシリーズものとして続いているのだから、それなりに人気があるのかもしれない。