平穏無事な日々を漂う〜漂泊旦那の日記〜

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菅野奈津『涙の川』(光文社)

涙の川

涙の川

昼間の公園で、自営業の辰見俊秀と5歳の杉山彩が刺され、彩は死亡した。父親で銀行員の杉山亮吾は事件と、自分が融資を担当していた会社社長が融資を打ち切られて自殺したことをきっかけとし、銀行を辞め、自らの手で犯人を捜し出すことを決意する。しかし妻の祥子は自分の殻に閉じこもったままだった。一方、事件を担当する警視庁捜査一課の上条は、被害者の辰見が関与したかつての詐欺事件を調べていくうちに、失踪したままである妻・須磨子の弟で、数年前に自殺した柏崎学が詐欺事件に関与していたことを知る。

2001年、第4回日本ミステリー文学大賞新人賞佳作受賞。応募時タイトル『盲信』。同年3月、加筆改題の上、単行本化。



最愛の娘が理不尽に殺害されたことをきっかけとする家庭の崩壊と犯人捜しという、題材としてはありきたりなもの。ただし文章力はなかなかなので、読んでいてそれほど退屈はしない。さらに事件を追う刑事側にも過去の妻の失踪が絡むという展開になっていたのは興味を惹いたが、主人公・杉山が追う事件と積極的に絡まなかったのは残念。家族の再生というテーマを別々の形で示そうとしたのだろうが、結果だけを見ると刑事側は蛇足だったと言っていい。その分、杉山の妻の過去をもっと掘り下げ、前半部で匂わせるなどしておけば、結末間近での唐突な告白という不自然な形にはならなかった。

警察の捜査で不思議だったのは、犯人のものと思われる車の持ち主を調べようとしないこと。売れていない車種とのことだったので、簡単に犯人に辿り着くとしか思えないのだが。他に上条に絡みつく刑事・吉川はほとんど機能していないので、不要。

犯人も今一つ、というか間抜けな部分が多い。杉山との絡みなんか、自滅に等しいと思うのだが、どうだろう。最後、無理に活劇にしなくても、とも思った。

作者は読ませる力はあると思った。ただし、構成の点で不要な部分、無理のある部分が見られ、もっと整理整頓が必要に感じる。佳作止まりなのも仕方が無いことか。