- 作者: 朱雀門出
- 出版社/メーカー: 角川書店(角川グループパブリッシング)
- 発売日: 2009/10/24
- メディア: 文庫
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2009年、「寅淡語怪録」で第16回日本ホラー小説大賞短編賞受賞。「今昔奇怪録」と改題、改稿。他に書下ろし4編を加え、2009年10月、刊行。
ホラーというより怪談という言葉がふさわしい表題作。じわじわと恐怖にまきこまれていく筆致が美しい。ただ、結末の弱さを感じた。ここでスパッと切れれば、大賞も可能性があった。
流行が過ぎ去った疱瘡で三人の娘を失った摂津屋。さらに娘の一人の墓も荒らされた。死体を食いたいがために疱瘡をまき散らす、疱瘡婆の仕業か。「疱瘡婆」。こちらは江戸時代を舞台とした正統派怪談。ただ、新味はない。
超大型力士、釋迦ヶ嶽は贔屓の男・藤兵衛に25歳で殺された。ところが男藤兵衛は自分が殺したことを認めず、町の者のせいにして多数殺害。獄門となった。入れ込み過ぎることの戒めとして、「釈迦狂い」という言葉が生まれた。その事件をモチーフにしたお化け屋敷に入った男の災難。「釋迦狂い」。釋迦ヶ嶽のエピソードの方が迫力があり、肝心のお化け屋敷に入ってからの展開は定型過ぎて楽しめない。
培養用恒温器に「Yamaki HepG2」と書かれた、見慣れないプラスチックシャーレが入っていた。HepG2は幹細胞だが、Yamakiという名前については指導教員も先輩も教えてくれなかった。シャーレは捨てたが、翌日、別のシャーレが入っていた。そして先輩が死亡した。「きも」。一気に現代的な内容となったが、研究の部分の話が長すぎて恐怖の割合が薄れている。
被験者、干渉者、観察者、統括者。何かの実験についての4人の記録が書かれる「狂覚(ポンドゥス・アニマエ)」。実験的な作品であることは認めるが、正直言ってわかりにくい。
5つとも毛色の違う内容の作品を用意することは、作者の守備範囲の広さを物語っているかのようである。出来不出来はあるが、恐怖を提供するという点については、どれも考えられた作品だ。ただ、これだけ振り幅が広い作品を並べるのは、印象が散漫になってしまい、作者にとってもあまりプラスにならないと思う。やはり、第1話の路線を並べたような作品集にすべきじゃなかっただろうか。
とはいえ、作者には可能性を感じさせる何かがある。まだまだ隠し玉がありそうだ。