- 作者: 矢田喜美雄
- 出版社/メーカー: 祥伝社
- 発売日: 2009/06/12
- メディア: 文庫
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下山事件について知らない人はいないだろう。その死が自殺か他殺か長い間議論され、いまだに決着せず、そして平成の時代に時が変わっても未だに出版されている。本書当時朝日新聞の記者であったは、矢田喜美雄によるものである。1973年7月、講談社より刊行。1985年6月、講談社文庫化。2004年3月、新風舎文庫として刊行。そして2009年6月、新たに祥伝社文庫より刊行された。
事件当時、警視庁捜査一課は自殺説を唱え、慶応大学法医学教室の中館久平教授が、生体轢断説を支持した。一方、警視庁捜査二課は謀殺説をとり、東京地検もそれを指示。また実際に死体を解剖した東京大学法医学教室の古畑種基教授も、死後轢断説を支持した。マスコミは、読売新聞と朝日新聞が謀殺説を支持し、毎日新聞は自殺説を指示した。そして両者が互いに証言や証拠を持ち出し、相手を非難した。また東大と慶大、さらに周囲を巻き込む法医学論争も起きた。
矢田は朝日新聞の記者であるが、入社前のベルリンオリンピックにハイジャンプの選手として出場し、五位入賞。その後、街のレストランで食事中に声を掛けてきたのが、当時旧鉄道省官僚時代の下山であった。矢田は事件後の7月7日より取材を担当。轢断点上手に血痕を見つけたり、衣類にヌカ油が付いていたなどの発見をするなど、他殺説を前提に調査を続ける。
述べ三百人に及ぶ取材の結論は「下山事件は占領軍CIC(対敵防諜部隊)が日本人を使って工作した」というものである。
戦後三大ミステリーと言われる事件の一つである「下山事件」。正直言って、永遠に結論が出ることは無いだろうと思っている。もしかしたら自殺なのかもしれない。他殺なのかもしれない。どちらの答えにも一定の説得力があり、そして一定の疑問点がある。
本書は他殺説の古典ともいうべきドキュメント。どうしてもあいまいな形で終わるのは仕方がないところであるが、その迫力は相当なもの。何度も版を変えて出版され、そして映画化もされた。いつまでたっても、色褪せることのない作品だろう。