平穏無事な日々を漂う〜漂泊旦那の日記〜

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栗本薫『優しい密室』(講談社文庫)

優しい密室 (講談社文庫)

優しい密室 (講談社文庫)

名門女子高の校内でチンピラの他殺死体が発見された。しかも現場は密室だった!? お上品な平和にはあきあきしていた森カオルは勇躍、事件の渦中へ……名探偵伊集院大介とワトソン役カオルが邂逅し事件の謎をとく好評シリーズ第二弾。著者自らの高校生活が色濃く投影され女高生の心理が躍如と描かれた秀作。(粗筋紹介より引用)

1981年1月、講談社より刊行。1983年8月、文庫化。



後にワトソン役となる森カオルが、高校時代に遭遇した事件。同時に、伊集院大介とカオルが初めて出会った事件でもある。作品としては伊集院大介シリーズの第2作になる。時系列でいえば、『絃の聖域』より前になるのか。

書かれた時代性や、現在とのギャップというものもあるだろうが、語り手でもある森カオルの感性というか、考え方がどうしても痛々しく見えてしまうのは私だけだろうか。だが、当時の少女小説の主人公って、こんな風に自意識過剰だったような気もする。まあ、美人生徒会長である高村竜子に憧れるところあたりは、今も昔も変わらないような気がするが。

事件が中盤に起きるため、ややいらいらさせられるせいもあるだろうが、密室事件のトリックはまだしも、解決に至るまでの伏線の張り方は今一つ。さらにいえば、終盤におけるカオルの暴走ぶりが、また痛々しいというか。だからこそ、伊集院大介の優しい視線がこの作品全体を覆っているわけであり、タイトルも"優しい"と付くのだろう。

森カオルは、作者自身を一部投影した姿なのだろう。作者がこのような小説を書いたのは、昔を懐かしんだからなのか。それとも単に、高校を舞台としたアイディアを思いついたからだろうか。いずれにしても、中年の男性が読むには少々キツイ作品。