平穏無事な日々を漂う〜漂泊旦那の日記〜

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マイケル・ギルバート『捕虜収容所の死』(創元推理文庫)

 時は一九四三年七月、イタリアの第一二七捕虜収容所では、英国陸軍将校の手で脱走用のトンネルがひそかに掘り進められていた。ところが貫通まで六週間ほどとなった朝、その天井の一部が落ちてスパイ疑惑の渦中にあった捕虜の死骸が土砂の下から発見される。入口を開閉するには四人がかりの作業が必要、どうやって侵入したのか理解不能だった。ともあれ脱走手段を秘匿すべく、別のトンネルに遺体を移し、崩落事故を偽装する案が実行されるが……。第二次世界大戦下、連合軍の侵攻が迫るイタリア。捕虜による探偵活動、そして大脱走劇の行方は? 二重三重の趣向を鏤めて英国の雄が贈る、スリル溢れるユニークな謎解き小説!(粗筋紹介より引用)
 1952年、イギリスで発表。2003年5月、邦訳刊行。

 

 序盤の出だしは侵入不可能な場所での死体という不可能事件なのだが、途中からどうやってよりもだれが、なぜ、の部分のほうに重点が置かれ、さらに収容所からの脱走と敵国スパイが誰かという大きなテーマが重なってくるから、どこに主眼を置くのだろうと思いながら読んでいた。意外とすっきりした仕上がりだし、よくぞこれだけのテーマをまとめたなと感心。ただ、最初の事件の真相はかなりがっくり来たけれど。逃走劇というサスペンスと本格ミステリが融合した部分は面白かったけれど、逃走劇のところはもう少しページがあってもなんて思ったりもした。
 こういう作品が50年以上訳されていなかったのだな、と思うと不思議な感じ。