平穏無事な日々を漂う〜漂泊旦那の日記〜

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高木彬光『黒白の囮 新装版』(光文社文庫 高木彬光コレクション)

黒白の囮 新装版  高木彬光コレクション (光文社文庫)

黒白の囮 新装版 高木彬光コレクション (光文社文庫)

深夜の雨の中、名神高速で自動車事故が起き、運転中の商事会社・社長は即死した。その後、社長夫人が病死し、娘が自宅で絞殺される。ただ一人、アリバイのない社長秘書が逮捕されたが…。冤罪を嫌い"グズ茂"の異名を持つ検事・近松茂道が一歩一歩真犯人に迫るシリーズ第一長編。最初期の短編「殺人へのよろめき」「殺意の審判」を収録。(粗筋紹介より引用)

1967年5月、「新本格推理小説全集」第8巻として読売新聞社より書き下ろし刊行。他に1960年11月「講談倶楽部」掲載の「殺人へのよろめき」と、1961年11月「週刊朝日別冊」掲載の「殺意の審判」を収録。



“グズ茂”こと近松茂道検事シリーズ。第一長編と粗筋では書かれているけれど、1963年の『黒白の虹』にも出ている。解説には当時のあとがきが載っており、「彼は副主人公として、後半で活躍するが、全編の主人公として、長編に登場するのもそう遠くないだろう」と書かれているから、シリーズものとしてはカウントされていない、ということでいいのかな。短編集ではすでに1964年に『捜査検事』としてカッパ・ノベルスから出版されている。

“黒白”とあるとおり、容疑者が黒か白かで二転三転。いくつかの状況証拠が出てきて、これは犯人に間違いないと思ったら犯人ではない証拠が出てきて、という手に汗握る展開である。様々な情報に振り回される警察だが、グズ茂こと近松検事の慎重すぎるぐらい慎重な判断と、ここぞというときの迅速な動きが、ついに真犯人を突き止める。「挑戦状」とは謳われていないものの、読者へ「真犯人を指摘されてはいかがでしょうか」と書いているあたり、かなりの自信作であったと思われる。新しい探偵役を使った書き下ろしということで、相当力を入れて書いたのだろう。最後の方で1箇所首をひねるところはあるけれど、よく考えられたトリックである。高木彬光1960年代の代表作の一つであり、現在の視点からでも充分面白く読むことができる一冊である。20年ぶりくらいに読んだけれど、その面白さは代わらなかった。

松本清張が責任監修であったこの「新本格推理小説全集」については、いずれ全10冊を読んでから思うところを書いてみたいと思う。8年前に一括で買ってから、放りっぱなしなんだよね。

「殺人へのよろめき」「殺意の審判」は近松検事ものの短編。手堅くまとまった作品である。