平穏無事な日々を漂う〜漂泊旦那の日記〜

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森山東『お見世出し』(角川ホラー文庫)

お見世出し (角川ホラー文庫)

お見世出し (角川ホラー文庫)

「お見世出し」とは花街で修業を積んできた少女が舞妓としてデビューする晴れ舞台のこと。お見世出しの日を夢見て稽古に励む綾乃だったが、舞の稽古の時、師匠に「幸恵」という少女と間違われる。三十年前に死んだ舞子見習いの少女・幸恵と自分が瓜二つだと知り、綾乃は愕然とするが――。

千二百年の都・京都を舞台に繰り広げられる、雅な恐怖譚。第11回日本ホラー小説大賞短編賞受賞の表題作に二編を加えた珠玉の短編集。(粗筋紹介より引用)

「お見世出し」で2004年、第11回日本ホラー小説大賞短編賞受賞。同年11月、表題作を含めた本書を角川ホラー文庫で刊行。



京都のホームバースタイルのお茶屋で、見世にいる小梅が「お見世出し」の話を始める。30年前、幸恵という天才少女がいたのだが、周囲に妬まれ、最後は奸計にはまって自殺してしまう。小梅は幸恵と瓜二つであり、才能もあった。そして修行に耐えて舞妓になった小梅は、お見世出しを行うことになったが。「お見世出し」。

普通のOLだった主人公は、舞妓を目指すため「伝之家」に入る。年下の春紅と、霊感の強い春雪に世話になりつつ、彼女は無事に舞妓・弥千華となることができた。そして新たに入ってきた真奈を、春紅は徹底的にしごく。京都の節分に花街で行われる芸舞妓を題材にした「お化け」。

扇子屋「杉一」に養子に入った要三は、周囲の職人に技を仕込まれる。そして無事に後を継ぐことができたが、先代から「大呪扇」の話を聞かされた。それは百年に一度だけ作られるもので、災いを吸う力があるという。先代が日露戦争の時に作らされたというその話は。「呪扇」。

いずれも京都を舞台とし、語り手が体験した話を語る形式となっている。京都弁と古都という舞台が怪しい雰囲気を醸し出すことに成功してはいる。「お見世出し」と「お化け」はともに舞妓を主人公としているが、作品としては圧倒的に前者の方が良い。というか、後者の方が今一つという感が強い。短編で同じような世界を並べられるのもどうかと思うし、まとまりにも欠けていた。逆に受賞作となる「お見世出し」の世界観は見事と言える。できればこれ1作だけで読んでみたかった。

「呪扇」については、グロテスクな描写が好きになれない。何もここまで丁寧に書かなくても、と思ってしまったが、これは好みの問題だろう。古都である京都ならそのような扇子が作られていてもおかしくはないと思わせるところは、作者の描写力が上手いところではある。異様な迫力があったことは、認めざるを得ない。

実力はあるのだろうけれど、気のせいか書ける世界が狭いのではないかと思ってしまう。普通の題材を使った時、どれぐらい書けるかが勝負だろう。