平穏無事な日々を漂う〜漂泊旦那の日記〜

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住野よる『君の膵臓をたべたい』(双葉社)

君の膵臓をたべたい

君の膵臓をたべたい

4月、盲腸の抜糸のために病院に来た僕は、病院で1冊の文庫本を拾った。本屋のカバーを外すと、マジックで「共病文庫」と書かれている。最初のページには、膵臓の病気で数年後に死んでしまうという手書きの文章だった。その文章を書いたのは、クラスメイトである山内桜良だった。「共病文庫」は彼女の日記帳。あっけらかんと、病気でもうすぐ死んでしまうと僕に告白する。そして【名前のない僕】と【日常のない彼女】の二人による関係は始まった。

2015年6月、ソフトカバーで刊行。



元々は小説投稿サイト「小説家になろう」に掲載されていたらしい。作者のデビュー作だが、色々なところで評判がよかったことと、タイトルに惹かれ、なんとなく手に取ってみた。

冒頭から山内桜良の葬式が描かれているので、二人の結末はすでに分かっている。そこまでどう辿り着くのか。読者は二人の出会いに引き戻され、正反対の性格である二人の関係を読み進めることとなる。本好きで存在感の薄い僕と、はつらつとした人気者である桜良。周囲は戸惑い、桜良の親友は敵意を向けるほどの噂になった二人だが、当の二人にそんなことは関係ない。とはいえ、二人が恋仲になるわけでなく、「生きる」ことに積極的な桜良と引きこもり気味の僕との、他の人の日常と変わらない高校生活が繰り広げられていく。

いわゆるボーイ・ミーツ・ガールの青春小説で、主要登場人物の一人の寿命がごくわずかだという、ある意味王道路線の一つと言えるような展開。安易に二人が恋愛関係にならなかったのはよしとしたい。それにしてもテンプレートな展開が並びつつ、最後の怒涛な展開には素直に感心。ああいう風になるのも、露骨な伏線からバレバレだったけれど、それでも素直に読むことができた。タイトルの意味も考えられたものだったので、満足。病名が明かされないなどの不満はあったけれど。旅行先なども実名は出てこないし、細かいところのディティールを突っ込まれたくなくて、名前を出さずにごまかした部分が見え隠れしたのは勿体なかった。

とはいえ、年を取った身からすると、「涙する」とまではいかなかったな。何というか、若いなーと苦笑してしまうところがある。人が死ぬ作品で、そんなことを言っちゃダメなんだけどね。読み終わって面白かったとは思ったけれど、それ以上の感慨は無かった。若いころに読めば、もっと別だったのかもしれない。

ブログによると、作者は男性らしい。どことなく男性の願望らしきものが見え隠れしたのはそのせいか。すでに10万部を超えたらしい。まあ間違いなく、来年あたりに映画化されそう、どこかの若手アイドルが主役で。そして今回の本屋大賞にノミネートされそうだ。