平穏無事な日々を漂う〜漂泊旦那の日記〜

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牧野修『スイート・リトル・ベイビー』(角川ホラー文庫)

スイート・リトル・ベイビー (角川ホラー文庫)

スイート・リトル・ベイビー (角川ホラー文庫)

ボランティアで児童虐待の電話相談をしている秋生。彼女自身、かつて育児ノイローゼになりかけていたところを保健婦に救われたという過去があった。人はなぜ、幼い子供を虐待しなくてはならないのか――そんな疑問を抱く秋生のもとにかかってきた一本の電話。それをきっかけに、彼女は恐ろしい出来事へと巻き込まれていく――。(粗筋紹介より引用)

1999年、第6回日本ホラー小説大賞長編賞佳作受賞。同年12月、文庫化。



1992年に『王の眠る丘』で第1回ハイ!ノヴェル大賞(早川書房から出ていた少年向け雑誌。すぐに廃刊となっており、第2回はない)を受賞してデビューした作者の作品。なぜ応募したのかはわからないが、この作品でメジャーになったのは事実だと思う。

内容としては児童虐待もの。ボランティアの女性が児童虐待の対応に携わるうちに不可解な事件に巻きこまれていく。この頃既に問題となっていたとはいえ、興味深い問題を読者にわかりやすく描く腕はさすがにプロの作家ならでは。現実の問題かと思われているうちに、徐々にホラー化していく手法は非常にわかりやすい。登場人物の内面も過不足なく描かれている。これはと思いながら結末まで来たのだが……。結末を読んでがっかりした。一言で言えば、落ちが弱い。

最後にホラーとなるべく設定が、正直言って唐突すぎた。一応伏線は張っているものの、読み終わってみると、何、こいつと言いたくなるぐらい、説明が足りない。結局虐待というテーマは何だったの、というぐらいつまらない終わり方になっている。もっと物語と密接に絡みそうな岸田茂も、終わってみるとただの脇役でしかなく、これだったら出なくてもよかった。

結局面白くなる場面をつなぎ合わせ、一つのストーリーに仕立て上げただけの作品だった。プロの小説家らしい技術は見えたが、それあけ。これで芯の通った作品に仕上がっていれば、佳作で終わるようなことはなかっただろう。