- 作者: 成定春彦
- 出版社/メーカー: 光文社
- 発売日: 2001/03
- メディア: 単行本
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冴木は会社の元警部であるセーフティセキュリティー部部長・合田を中心として早苗をガードさせ、会社の資金を元に市場の株を買い取り回るが、石原も株を買い取りに回ると同時に、今度はキョーシンと冴木に狙いを付けてきた。
2000年、第4回日本ミステリー文学大賞新人賞佳作受賞。2001年3月、改題・加筆のうえ、単行本刊行。
この回の本賞は受賞者無し。他に菅野奈津『涙の川』が佳作で選ばれている。
ノンストップ・エンターテイメントらしいが、出版当時28歳であった若い作者の勢いだけで書かれたような作品である。
突っ込みどころは満載。死んだ彼女に似ているからといって、縁もゆかりもない女性とその会社を助けるために金も含めた自社の全力を投入しようとする主人公って何? そんな主人公にみんな心酔するのもおかしな話で、誰かブレーキぐらい掛けろよといいたい。
松下隆の能力なんか、ちょっと会話すればすぐに無能だとわかるだろう。いくら娘婿といっても、こんな人物を社長に据えようとする方がそもそも問題。経済人のやることじゃない。
既に暴対法も施行されているのに石原たちはかなり派手な動きを見せる。これだけならまだありだが、石原が堂々と松下観光の株主総会に出るってどういうこと? しかも株主総会で脅迫行為だよ。依頼主である京阪電鉄の会長も、表だっての関係は途絶えているというのに、最後は石原と一緒に株主総会に出るなんて、手を組んでいますよといっているようなもの。そんなことがマスコミに知れたらただじゃすまないでしょう。暴力団がくっついていることを公言しているような私鉄になんか乗らないだろうし、そんな旅館に泊まろうとも思わない。法律には詳しくないのでわからないが、商法などの面でも突っ込むところはあるのだろう。
多分作品としては破綻していると思われる。それでもドラマや劇画を見るような楽しさはある。アクションも場面切り替えも多いからテンポもよいし、敵と味方がはっきりしていて可愛いヒロインがいる。主人公の冴木はあまりにも青いが、そんな青さもまたよいだろう。わかりやすい面白さと言えばいいのだろう。
これだけ設定に破綻があったのだから、佳作止まりも仕方がない。構図も単純すぎる。一作だけならこれでもいいだろうが、成長がないと作家としてやっていくのは難しいと感じた。
作者は1年後の2002年3月にカッパ・ノベルスから『天狗』という作品を出しているが、以後の活動は見られない。