- 作者: ピエールルメートル,橘明美
- 出版社/メーカー: 文藝春秋
- 発売日: 2014/09/02
- メディア: 文庫
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2011年、フランスのEditions Albin Michelより発表。2012年、リーヴル・ド・ポッシュ読者大賞ミステリ部門受賞。2013年、英国推理作家協会のCWA賞インターナショナル・ダガー賞受賞。2014年9月、翻訳。『このミステリーがすごい!』『週刊文春ミステリーベスト10』『ミステリが読みたい!』『IN POCKET 文庫翻訳ミステリー・ベスト10』第1位。
あれだけ騒がれたんだから読んでみよう、と思って手に取った1冊。そういえばフランス・ミステリの新刊を読むなんて久しぶりだと思いつつ。
第1部は監禁され虐待されるアレックスと、拉致された目撃証言から事件を追うパリ警視庁犯罪捜査部のカミーユ・ヴェルーヴェン警部ら捜査陣が交互に書かれる。「101ページ以降の展開は、誰にも話さないでください」と帯にあるからそれ以上は書かないけれど、確かに「物語は大逆転を繰り返す」。
読み終わってみると、確かに評価が高い理由もうなずける。第1部はアレックス側から見たら脱出サスペンス、捜査側から見たら誘拐捜査小説である。しかし当然ながらそれだけではない。ネタバレは嫌いなのでこれ以上は書かないが、昔のフランス・ミステリにあったようなトリッキーな展開が待ち受けている。読者が翻弄されることは間違いない。昔懐かしい「ネガがポジに反転する」という言葉を思い出した。
しかしこの作品のよいところは、トリッキーな部分だけではない。アレックスという人物の造形は素晴らしいし、低身長にコンプレックスを抱くカミーユ警部や上司のジャン・ル・グエン部長、部下のルイやアルマンといった捜査陣もよく描けている。判事と警察の対立といった警察小説ならではの要素もよいスパイスだ。詳しくは触れないが現代小説らしい要素も加味されている。つまり、さまざまな要素が噛み合い、奇跡のブレンドによって素晴らしい作品に仕上がっているのだ。第3部まで読み終えたときの満足感は、読了した人にだけわかるものだろう。
確かに細かい矛盾点は結構ある。終わり方に疑問を抱く人もいるだろう。しかし、そういった要素も含めて傑作、といってしまっていいと思う。そんな作品だと思う。
この作品、カミーユ・ヴェルーヴェン警部シリーズの2作目とのこと。これは当然1作目も読んでみたいし、3作目も2012年に出ている。いずれ翻訳されることを期待しよう。また、映画化も企画されているというけれど、こちらは見ない方がよさそうだ(もともと映画はほとんど見ないけれど)。