平穏無事な日々を漂う〜漂泊旦那の日記〜

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E・C・R・ロラック『ジョン・ブラウンの死体』(国書刊行会 世界探偵小説全集18)

 

ジョン・ブラウンの死体 世界探偵小説全集 (18)

ジョン・ブラウンの死体 世界探偵小説全集 (18)

 

  ある冬の夜、人気のない崖地で野宿していた浮浪者ジョン・ブラウンは、大きな袋を運ぶ怪しい男に出会った。そして翌朝、120マイル離れた街道で、重傷を負い、意識を失ったブラウンが発見された。瀕死の浮浪者の遺した奇妙な話に興味を持ったマクドナルド主任警部が、休暇を利用して調査に乗り出すや、事件はたちまち複雑な様相を見せ始めた。作家の失踪、事故に見せかけた殺人未遂、袋詰めの死体……イングランド西部の荒涼たる自然を背景に展開される奇怪な事件。英国ミステリの醍醐味を満喫させる本格派の巨匠ロラックの代表作。(粗筋紹介より引用)
 1938年発表。1997年2月、邦訳刊行。

 作者はイギリスの女流作家で、英国本格ミステリを代表する巨匠のひとり。70冊以上の長編を発表し、デビュー作から登場するロバート・マクドナルド警部がほとんどの作品で探偵役を務めている。読むのは初めて。
 田舎で事件が起きて休暇中の警部が謎を解くというのは英国本格ミステリのパターンの一つ。冒頭の奇妙な話は興味深いものの、その後の地元の人への捜査は何とも緩いというか、のんびりしているというか。この英国風がどうも苦手なのだが、我慢して読み進めると、盗作疑惑を絡めるとある程度予想できたとは言え、なるほどと思われる本格ミステリを楽しむことができた。情景描写に定評があるというのは納得。これで邦訳がほとんどなかったのは不思議。
 なお"John Brown's Body"はアメリ南北戦争当時の愛唱歌。John Brownは実在の人物で、アメリカの奴隷廃止運動家である。後にこのメロディに別の詩が付けられ、「リパブリック賛歌」として有名となる。それにジョン・ブラウンという登場人物も掛けている。巧いタイトルの付け方だ。