- 作者: 長沢樹,青山裕企
- 出版社/メーカー: 角川書店(角川グループパブリッシング)
- 発売日: 2011/09/26
- メディア: 単行本
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2011年、眼鏡もじゅ名義の『リストカット/グラデーション』で第31回横溝正史ミステリ大賞を受賞。改名、改題、加筆修正のうえ2011年9月、刊行。2012年版の『このミステリーがすごい!』と『本格ミステリ・ベスト10』の両方で第6位に選ばれた。
まず帯の言葉をここに書き出す。
・歴代受賞作の中でも三本の指に入る一品――綾辻行人
・誤りなく組み上げられた建築である。感心した。――北村薫
・間違いなく、私が読んだ中で最高の傑作である。――馳星周
ここまで書けばたいていの人は騙されるだろう。もしくは敬遠するだろう。私は後者だった。読み終わって敬遠したことを非常に後悔したのだが、それはさておき。折り返しには三氏の選評の抜粋が記されている。はっきり言おう。帯では人をだましている。正確に書くとこうなるのだ。
・(横溝賞の選考に関わって長いが、その間に読んだ原稿)歴代受賞作の中でも三本の指に入る一品――綾辻往人
・(ひとつ取れば崩れるようなブロックが、)誤りなく組み上げられた建築である。感心した。――北村薫
・(この賞の選考委員を務めるよう之なって三年になるが、)間違いなく、私が読んだ中で最高の傑作である。――馳星周
いやはや、これでは詐欺といっていいだろう。帯に騙されたという読者は、この三氏に怒らないでほしい。明らかに非は角川にある。
とまあ、角川には怒りまくったが、歴代受賞作と比較してみても、三本の指に入るかどうかはわからない(全部読んでいないし、今度考えてみよう)が、五本の指には間違いなく入る……んじゃないかな。
女子バスケ部のエース、網川緑が屋上から転落し、助けに行こうとした男子バスケ部の素行不良の問題児、椎名康が助けに行こうとすると何者かに絞め落とされ、気がついたときにはなぜか緑が消えていたという消失事件。康と、放送部の友人でクラスメイトの樋口真由が事件の謎を解き明かすため、調査を続けるストーリー。序盤はやや冗長でまだるっこしい展開が続くが、そこさえ過ぎてしまえば色々な人間模様が渦巻いて非常に面白い。ややドライすぎる気もするのだが、今時の高校生に近いものはあるのだろう。
トリック自体はミステリファンなら想像付きそうなものである。とはいえ、なんとなくこうだろうなあ、と思う程度のものであり、作者の全ての狙いを見破るのは難しいだろう。北村薫の選評がいちばん的を射ているのではないだろうか。確かに読んでいて危なっかしいところはある。首をひねる部分もある。今にもぐらついて倒れてしまいそうだ。そのギリギリの部分で作品が成り立っているのは素晴らしい。とはいえ、これは読者を選びそう。過程の部分を楽しもうとする人には、その危なっかしさが目についてどうにもならなくなるだろう。
これ、帯の宣伝文句で損をしている部分があると思う。だいたい綾辻行人が誉める時点で、一般受けしないことは保障されているようなものだからなあ(ものすごい偏見)。はまる人にははまるのだろうとは思うし、そういう人は高く評価するのだろう。癖のある作品だが、個人的には嫌いじゃない。ただ、主人公がモテる理由はさっぱりわからない(苦笑)。
まさかとは思ったが、探偵役の樋口真由は2作目にも登場する。どんな内容になっているのか気にはなるのだが、読むのは怖い感もある。