平穏無事な日々を漂う〜漂泊旦那の日記〜

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ヘレン・マクロイ『割れたひづめ』(国書刊行会 世界探偵小説全集44)

割れたひづめ 世界探偵小説全集 44

割れたひづめ 世界探偵小説全集 44

「あたしがやるようにやってごらん、割れ足さん!」少女の声に応えてすばやく答えが返ってきた。トン……トン……トン……。雪深い山中で道に迷ったベイジル・ウィリング夫妻が一夜の宿を求めた屋敷〈翔鴉館〉には、そこで眠る者は翌朝には必ず死んでいるという開かずの部屋があった。その夜発生したポルターガイスト騒ぎのあと、不吉な伝説を打ち消すため、くじで選ばれた男がその部屋で寝ずの番をすることになったが、30分後、突如鳴り響いた異常を知らせる呼び鈴の音に駆けつけた一同が目にしたのは、伝説どおり謎の死を遂げた男の姿だった。H・R・F・キーティング〈名作100選〉にも選ばれたヘレン・マクロイの後期代表作。(粗筋紹介より引用)

1968年発表。マクロイの20作目の長編小説。2002年11月、翻訳。



雪に閉ざされた山荘で、しかも呪いが起きるという開かずの部屋での不可能殺人事件。うーん、マクロイって本格ミステリの味を持ちつつもやっぱりサスペンスの作家と勝手に認識していたため、ここまでカチッとした本格ミステリを書いているとは思わなかった。しかも精神分析学者ベイジル・ウィリングって、シリーズ探偵だったんだ……。

1968年という書かれた時代を考えても、かなり古典的な作りの本格ミステリ。心理学的分析があるのはマクロイらしいが、本格ミステリとしては今一つ。警察が来ているのなら、死因を調べれば誰が犯人かなんて一発でわかると思うのだが。だいたい、最初に調べるでしょう。その時点でダメだなあ、これは、キーティングもどこが良くて名作100選に選んだのだろう。

登場人物としては、館の借主である小説家の娘・ルシンダと隣に住む少年・アイヴァンがちょっと面白かったのだが、半分近くもこの2人のやり取りにページを費やされるのは興醒め。大人の視点だけにしておけば、あっという間に終わる事件だから、仕方のないことかも。

原題は"Mr.Splitfoot"であり、ルシンダが叫ぶ「割れ足さん」である。この小説に出て来るだけの言葉かと思ったら他にもあったので、割と有名な幽霊なんだろうか。英語が読めないので、その辺はよくわからない。それにしても、これに「割れたひづめ」というタイトルを付けるのはどうかと思う。

巻末にある加瀬義雄の「ヘレン・マクロイ――作家と作品」は良かった。作者の経歴と全作品解説が付けられており、これを読めばマクロイがどんな作家かわかるようになっている。本書でよかったと言えるのは、むしろこちらだったりする。