平穏無事な日々を漂う〜漂泊旦那の日記〜

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福島サトル『とくさ』(角川ホラー文庫)

とくさ (角川ホラー文庫)

とくさ (角川ホラー文庫)

神経を病んで事件を起こした男から送られてきた1編の小説。少年は母親とともに花火大会を見に来たが、母親は用事があるからとつつじ園へ行ってしまう。待つようにと言われた少年だったが、トイレに行きたくなり、母親の後を追ってしまった。「ナイヤガラ」。

中学生の少年は、小学生時代に療養していた叔父が住む村へ一人で行く。当時の記憶を無くしていた少年は、左手を閉じたまま決して開こうとしない少女と出会う。「掌」。

新聞社に届いた手紙を元に取材に出かけた私だが、取材先の人物は悪戯だと取り合わない。帰る途中、私は道の真ん中で死んだ犬をなでている少女と出会った。私は少女と犬を乗せ、埋める場所を探す。「犬ヲ埋メル」。

新聞記者を辞めた「私」は、御溝と名乗る奇妙な男から秘薬ニスイについて執筆を依頼されるが、取材相手の死など不吉な体験をする。実は、御溝は死者の言葉を呼び返そうとしていたのだ。庭を覆い隠す木賊のように「私」の不安は増殖してゆく。言葉の呪術的な力を駆使した「とくさ」(粗筋紹介より引用)。

「とくさ」で2004年、第11回日本ホラー小説大賞佳作受賞。同年11月、表題作を含めた本書を角川ホラー文庫で刊行。作者は同年、「はいけい、たべちゃうぞ」で第20回ニッサン童話と絵本のグランプリにおいて童話部門最優秀作品賞を受賞している。



ホラーと言うよりは幻想小説に近い作風。解説で内田百輭に触れられているのだが、さすがにそこまでの文学性はない(文学性って何といわれても困るけれど)。言いたいことはわからないでもないが。

「ナイヤガラ」は少年の視点ということがあるのかも知れないが、読みづらい。「掌」「犬ヲ埋メル」については、内容の把握に手間がかかった。「とくさ」についても、なんだか読者を置いてけぼりにしているかのような、描写不足な世界観の文章が続く。これは暗喩が多いせいだろうか。

独特の世界観があることは認めるが、物語として楽しめるかとなると別問題。なんかもやもやとしたまま読み終わってしまった。