平穏無事な日々を漂う〜漂泊旦那の日記〜

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赤星香一郎『虫とりのうた』(講談社ノベルス)

虫とりのうた (講談社ノベルス)

虫とりのうた (講談社ノベルス)

小説家を目指す赤井は、ある日河川敷で必死に助けを求める少女と出会う。知らない男に追いかけられていると訴える少女。だが、男は少女の父親だと言いはる。助けようとする赤井だったが、居合わせた大人たちに少女を男に返せと言い含められ、その場をやり過ごしてしまう。そして後日、少女がその男性に殺害されたということを知って罪の意識に苛まれ、彼女の葬儀に参列。そこで「虫とりのうた」という奇妙な唄にまつわる都市伝説を耳にした……。(粗筋紹介より引用)
2009年、第41回メフィスト賞受賞。同年8月、刊行。



作者名を見て「怪物ランド」かよ、って突っ込んだこと(赤星昇一郎ですな。そろそろ再結成しないかな……)はさておき、折り返しで「この小説には、作中で解明されていない秘密が隠されています。その秘密に気づいたあなたは、なぜ事件が起こったのか、本当の理由を知ることでしょう」と書かれていたので、気になった。まあ、作者が広言する内容はだいたいが外れなのだが、今回は「解明されていない秘密」がなんだかわからなかったので、どう評価すればよいか微妙である。そもそも、解明されていない点が多すぎることが問題である。

「虫とりのうた」通りに次々に人が死んでいく。死んだ人物はいずれも、少女が赤井に助けを求めた時に居合わせた面々だった。その面々のいずれもが「虫とりのうた」に絡んでいるというのも奇妙な偶然だが、これが単なる偶然なのかどうかがわからない。そもそも、なぜ彼らが「少女を男に返せ」と言ったのかも不明。途中で出てくる大予言者の予言歌があまりにもしょぼい。「かしでえんまなおえましん」という呪文には、アナグラムが見え見えで苦笑するしか無かった。赤井がずっと家に居るのに何も気づいていない点もおかしい。赤井の妻がカップを二つ出した理由がわからない。犯人は見え見えだが、なぜ今の時点で殺人を犯す動機がわからない。平仮名で名前を書くと似通っている点も、結局何を言いたいのかがわからない。何もかもひっくるめて、それが「ホラー」だと作者が言いたいのなら、あまりにも都合が良すぎる。登場人物のいずれもが自分勝手すぎるし、全く共感できないというのもどうかと思う。

ホラーならメフィスト賞ではなくホラー大賞に送ればいいのにと最初は思ったが、これでは最終候補作に残ることは無理。駄作とまで言うつもりはないが、編集者がこれを推した理由はさっぱりわからなかった。