平穏無事な日々を漂う〜漂泊旦那の日記〜

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醍醐麻沙夫『ヴィナスの濡れ衣―南紀殺人事件』(文藝春秋)

ヴィナスの濡れ衣―南紀殺人事件

ヴィナスの濡れ衣―南紀殺人事件

和歌山県南紀白浜の沖磯で釣りをしていた運送会社社長の崎山真一郎が刺殺された。周りには複数の漁船があり、それぞれが磯に近づいていないと証言。唯一近づくチャンスがあったのは、近くで海底生物の観察をしていた、海洋研究所の助手、江口繁之。江口はダイビングを通じ、崎山の妻絵里子と知り合いであった。絵里子は再婚であり夫婦仲はあまりよくない。警察は江口を重要容疑者と位置付けた。一方、江口は絵里子のことが好きであったが、まだ告白すらしていない状況だった。江口は自らの濡れ衣を晴らすため、研究所の仲間たちとともに自ら犯人探しに乗り出す。

1991年、第9回サントリーミステリー大賞佳作受賞作。1991年10月刊行。



作者は大学卒業後ブラジルへ移住。第1回サンパウロ新聞文学賞を受賞。1974年、「『銀座』と南十字星」で第45回オール讀物新人賞受賞。1975年には『夜の標的』で下半期直木賞候補となっており、すでにアマゾンの釣り小説やミステリの著書を何冊も出版していた。

ということで、すでに何冊もミステリを書いている作家が改めて応募してきた作品であったが、読んでみるとよくありがちがな2時間ドラマミステリ。濡れ衣を着せられた主人公が、心を通わせている被害者の妻や頼れる仲間たちと一緒に事件の謎を追いかける話。最有力容疑者なのに、絵里子と会って情を通わせるなどの軽率な行動は有り得ないと思うし、犯人と被害者の関係ぐらいもっと早く見つけられるんじゃないのとも思ったが、気が付いたら警察が仲間になっているようなご都合主義な部分がなかったのは好感が持てる。

一応開かれた密室状態の殺人事件だが、謎そのものはそれほど面白いものではなく、やはり人間関係のドラマが中心。文章も展開も手慣れた感じの描き方なので、プロの作品をそのまま読まされているとしか思えなかった。退屈はしなかったが、公募でアマチュアらしい情熱が感じられないのはやはりマイナス。良くも悪くもベテランの作品だった。

1992年6月にはテレビ朝日の土曜ワイド劇場でドラマ化されている。主演は三浦友和と佳奈晃子。それにしてもタイトルが「南紀釣り人殺人事件」ってのはどうにかしてほしかった。

サンミス読破もマジック7(感想を書いていないのが他に3作品)。既刊分の協会賞全集を読み終わるのとどっちが早いか。