世紀末ロンドン・ラプソディ―A Study in Violet
- 作者: 水城嶺子
- 出版社/メーカー: 角川書店
- 発売日: 1990/06
- メディア: 単行本
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1990年、第10回横溝正史賞優秀作受賞。同年6月、刊行。
副題はA Study in Violet。邦題にすると「紫色の研究」といったところか。この年の大賞受賞は無し。この年の最終候補作である残り2作品、鈴木光司『リング』、吉村達也『ゴーストライター』(『幽霊作家殺人事件』を改題)は後に出版されている。受賞者はその後『銀笛の夜』1冊しか作品を出さず、他の2人がどちらも人気作家となっていることを考えると、選考委員に見る目が無かったか。特に『リング』を落としたことについては、後に色々と叩かれていたなあ。選ぶ側にも色々言い分があるだろうけれど、あの『殺人狂時代ユリエ』を第2回に選んでいる賞だから、『リング』を選んだって問題は無かっただろうに。
昔読んだ記憶があるよな、と思いつつすっかり筋を忘れていたので読んでみたのだが、今風に言うと「ホームズ萌え〜!」(既に死語か?)な作品である。女性だったら架空のヒーローとの恋に憧れるだろうが、それをここまで露骨に書くか、と言いたくなるような作品である。ウェルズまで出てきて、本当のタイムマシンで過去に行くという展開はまだ許せるが、主人公の瑞希が未来のことをぺらぺら喋るというのは、数多くのSF作品のお約束を蔑ろにしているようにしか見えない。ウォークマンをホームズたちに聴かせるわ、ホームズに近い推理力は見せるわ、いきなり忍者に昔から興味があったという設定が出てくるわ、やりたい放題。マイクロフト、ディオゲネス・クラブ、語られざる事件として有名なフィリモア氏の話を絡めたのは頑張ったといえるだろうが、ホームズの過去の恋愛まで創作してしまったのはやり過ぎだった気もする。
この作品の根本的な問題点は、内外含めて山ほどあるホームズのパスティーシュ作品(パロディ含む)の枠から一歩も外へ出ていないこと。新味がゼロなので、普通だったら優秀賞でも受賞できなかっただろうと思ってしまう。2010年代だったら、ライトノベル風味で売り出す方法があったかも知れない。