平穏無事な日々を漂う〜漂泊旦那の日記〜

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山田正紀『贋作ゲーム』(扶桑社 昭和ミステリ秘宝)

贋作ゲーム―昭和ミステリ秘宝 (扶桑社文庫)

贋作ゲーム―昭和ミステリ秘宝 (扶桑社文庫)

謎の画家W・オイレングラスが描いた作品「主の足を洗う女たち」が展示されることとなった。ところがその作品は贋作だという。その絵を描いた画家の娘から依頼された元贋作家の美術評論家狩野昭は、美術館に展示されるのを阻止するためにある作戦を立てる。「贋作ゲーム」。

警視庁の対・破壊活動班班長の柴田隆三は、パリ留学中だった娘聖子がギリシャで誘拐されてテルアビブに監禁された。解放する条件は、パレスチナ・ゲリラにおける謎の日本人らしきコマンド「風」とともに、スエズ運河に仕掛けられた撤去不可能と言われる機雷「プッシー・キャット」の撤去に挑むこととなった。「スエズに死す」。

独立プロを作ったが金のない大物映画監督福本達児の製作費を稼ぐため、新作映画の海賊版を密輸していたカメラマンの藤田泰郎。しかしある日、そのフィルム盗まれてしまい、さらに世間に公表とすると脅された藤田は、製作が難航しているハイジャック映画と同じようにハイジャックを手伝う羽目となる。「エアポート・81」。

無き妻の面影を持つ女子大生真名瀬祥子に惚れてしまった設計家の伊丹謙介は、自らも設計に加わったビルに忍び込み、塚田金融事務所にある金庫の金を盗む計画を立てた。その金は祥子の父が、かつて塚田と組んで8年前に銀行強盗をしたときの、ナンバーが控えられた金の可能性があった。「ラスト・ワン」。

弟が警官に殺されたリオデジャネイロに来た二戸寛。目的は、反政府運動の容疑者として逮捕された弟の妻を助けるためであった。寛は釈放を求めるため、アマゾン河谷にダムを作ってアマゾン川をせき止め、巨大な内海を作るという「大アマゾン人工湖計画」を支えるダムの破壊計画に参加する。「アマゾン・ゲーム」。

マッカーサー元帥がタラップを降りた瞬間をピストルで撃って負傷させたという証言のテープと写真がテレビ局へ送られてきた。制作部長の江川に命じられた私は、ドキュメンタリーを作るために証言を疑いつつも取材を始めた。「マッカーサーを射った男」。

経済界の隠れた大物である岩動大造にスカウトされ、三か月前から伊豆の別荘に住み込んで働いている竜。わざとらしく食堂に置かれている金庫には大金が。竜はついにその金に手を付けたが、それは岩動が仕掛けたゲームの始まりだった。「伊豆の捕虜(とりこ)」。

著者曰く、「“ミッション・インポシブル”と“地下室のメロディ”の中間ぐらいをねらった」シリーズ『贋作ゲーム』四編に、三編を新たに追加して収録。



PART1とくくられた最初の四編は、鬼才山田正紀が1977〜1978年に『オール讀物』に掲載された三編に書き下ろしを含めて1978年に文藝春秋から単行本で出版されたシリーズ。1983年に文春文庫から出た後、長く絶版となっていた。作者はこのシリーズを書く際、「俺の一人称で統一」「暴力シーン、ベッドシーンはなし」「人は一人も死なない」というルールを定めたという。まさに男達による“ゲーム”であり、そして作者が自らに枷をはめた上で知的な遊戯を楽しもうというシリーズである。こういう小説をCaper Storyというらしい。あえて訳すと「泥棒小説」となるらしい。

“ゲーム”とあるが、最初の三編はいずれも脅迫されたから犯罪に染めているわけであるし、最後の一編も惚れた女のために犯罪に手を染めるわけだから、当事者としては“ゲーム”の意識はないはず。このゲームとは、作者と読者の間に成立するゲームなのである、本来は。しかし、不可能状況下に置いて、いかにミッションを成功させるかという男の熱い戦いを、あえて作者は“ゲーム”と表現したのだろう。そのミッションは、単純に依頼されたことを成功させる、ということではない。依頼者の、そして読者の裏をかいた上で、いかにして成功させるかが重要なのである。我々読者をアッと言わせることができれば、それで作者のゲームは「ミッション・コンプリート」となるのだ。そしてそのゲームは、どの四編でも作者の勝利で終わったと思われる。仕掛けとして一番驚いたのは表題作であったが、結末の鮮やかさという意味では「ラスト・ワン」の方が上だろう。

PART2としてくくられた残り三編は、今回の「昭和ミステリ秘宝」へ収録するにあたり、新たに追加した短編。やや毛色が異なるところはあるが、作品の本質自体は変わらない。

山田正紀のミステリにはあまり良い印象を持っていなかったし、この頃の作者といえばSFのイメージが強いのだが、このような犯罪小説の傑作集も書いていたことを初めて知った。うん、これは確かに面白い。なぜ今まで絶版だったんだろう。帯には「犯罪ゲーム小説集1」とあったから2があるのかと思ったらすでに出ていた。昭和ミステリ秘宝もまだまだ出してほしいところだけど、難しいかな。

どうでもいいけれど、「スエズに死す」で東アジア反日武装戦線などの犯人たちが実名で出ているけれど、大丈夫だったのかね。