- 作者: J.ディクスンカー,John Dickson Carr,大村美根子,深町真理子,高見浩
- 出版社/メーカー: 東京創元社
- 発売日: 1998/01
- メディア: 文庫
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降霊会の最中に、縛られたままの心霊研究家が殺された。周囲にいた人物は皆手をつないでおり、まさに幽霊が殺害したかに見えたが。フェル博士が不可能犯罪の謎を解く「暗黒の一瞬」。一応不可能犯罪ものだが、謎解きはあっという間だし、それ以上にこの結末には首をひねる。
ハンガリーの伯爵の姪に結婚を申し込むイギリス伯爵の息子。伯爵は青年を自分の館に招待する。しかしこの館には魔物が住むという噂が。そしてレディに結婚を申し込んだ人物は皆殺害されたという。「悪魔の使徒」。似たような作品が色々あった気もするし、構成もただのサスペンス作品。
イギリス田舎の屋敷の地下にあるプール。屋敷の持ち主である実業家が刺殺されたが、肝心の凶器がなかった。「プールのなかの竜」。トリックはカーの某短編で使用したものだが、強調すべきはむしろ結末の方か。
フェル博士の家を訪れたのは出版社の男。彼は墓に残されていた電話番号へ誘われるようにかけてしまった。電話から聞こえてきたのは、30年前に死んだはずの女性だった。「死者の眠りは浅い」。怪奇な謎をフェル博士が合理的に解き明かすものだが、そもそも電話をかけなかったらトリックが成立しないような。
カジノで金を失った男に、ある男が薬代を受け取る仕事を申し込む。ところが男は、背中をナイフで刺されて殺された。しかし周囲には誰もいなかった。「死の四方位」。カーの短編「銀色のカーテン」をラジオドラマ化したもの。トリックそのものは聴覚よりも視覚的なものだと思えるが。このトリックは結構好き。
婚約したばかりの青年のところへ、殺人の権威であるグリモー博士が声をかけた。婚約者は、実は毒殺魔だという。「ヴァンパイアの塔」。これはよくできていると思う。このラジオドラマ集のベスト。
友人である怪奇作家の挑発に乗り、“ふさわしい環境”で彼の原稿を読むべく、連れと一緒にある田舎の屋敷へ入ったが。「悪魔の原稿」。アンブローズ・ビアスの短編「ふさわしい環境」をベースに脚色した作品。不可思議な怪奇現象が最後で入れ替わるのは見事だが、多分ここはカーの脚色だと思う。
フランス国家警察の者が白虎の通路と呼ばれる狭い道で殺された。彼は切り裂き魔を追ってイギリスに来ていた。彼と最後に話した若手新聞記者は犯人を追いかけるが。「白虎の通路」。M.Dという残された手がかりで調査を続けるが、出てくる人物は同じ頭文字の人物ばかり。事件の内容と比較してテンポはユーモア調。オチは割りとよくある手法か。
新婚夫婦が誘われてローマにある屋敷へ。ここには300年ほど前の貴族の亡霊が現れるという。窓の外は郊外住宅地があったが、屋敷を案内されて元に戻ると窓の外は原っぱになっていた。「亡者の家」。大掛かりな消失トリックを扱っているが、アッという間に解決されてしまうので、その意外性に驚きが着いていかず、呆気なさだけ残ってしまった。
ダイヤを奪った強盗犯が電話ボックスに入り、そして消えてしまった。クリスマスストーリー「刑事の休日」。電話ボックスからの消失というとクレイトン・ロースンの「天外消失」を思い浮かべてしまうが、そちらよりは意外性に劣る解決。まあ、クリスマスをテーマにしたちょっとした小編という程度の作品だろう。
カーのラジオドラ9編を集め、1983年に刊行されたダグラス・G・グリーン編『The Dead Sleep Lightly』に短編「刑事の休日」を収録。巻末には松田道広の「新カー問答」も収録。
かなり以前から発売が予告されながらも、実際に発売されたのは1998年1月。待たされたという感があった作品集だが、内容としてはカーファン以外には今ひとつといったところではないだろうか。音声があれば少しは違ったのかもしれないが、これから、と言うところで解決を迎えてしまっているものばかりである。サスペンスや不可能犯罪といったカーらしさは味わえるが、物足りなさを覚えたのも事実。それでも読むことができたからよかった。「新カー問答」については昔読んだからパス。