平穏無事な日々を漂う〜漂泊旦那の日記〜

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小酒井不木『犯罪文学研究』(国書刊行会 クライム・ブックス)

犯罪文学研究 (クライム・ブックス)

犯罪文学研究 (クライム・ブックス)

 

 

 江戸時代にも推理と観察によって難事件に挑んだ名探偵たちがいた。西鶴「桜陰比事」をはじめとする、「鎌倉比事」「藤陰比事」などの裁判物、北条団水の詐欺騙盗譚 「昼夜用心記」、名判官の推理が冴える馬琴「青砥藤綱模稜案」など、探偵小説の先駆ともいえる犯罪・推理を主題とした作品を紹介、さらに秋成、了意の怪異小説、近松シェークスピアにおける殺人比較論、黙阿弥の悪人像考察まで、古今の文献をひもとき、古典・科学・民俗学のペダントリーをおりまぜながら、日本犯罪文学の系譜を辿った名著「犯罪文学研究」に、「探偵小説管見」「江戸川氏と私」他の探偵小説エッセイ、『マクベス』に登場する魔女の鍋の中身を考証した「妖婆の鍋」、西欧近世で猛威を奮ったペストの恐怖を綴った歴史奇譚などを収録。驚くべき博識と抜群の面白さで、探偵小説の鬼たちを魅了した不木随筆のエッセンスを集大成。(粗筋紹介より引用)
 1991年9月、刊行。

 

【目次】
 犯罪文学研究
 犯罪者のジェーキール・ハイド性
 モリアーチー教授
 探偵の元祖ヴィドック
 科学的研究と探偵小説
 探偵小説管見
 探偵小説の将来
 江戸川氏と私
 妖婆の鍋
 怪物の出産
 「ペスト」小史
 デ・フォーの「倫敦疫病日誌」
 エーンズウォースの「旧セント・ポールス寺院」
 サムエル・ピープスの日誌その他
 小酒井不木-横断する知性 長山靖生

 「犯罪文学研究」は、『新青年大正14年6月号~15年9月号に連載された随筆。江戸時代の裁判小説集ともいえる『本朝桜陰比事』『鎌倉比事』『本朝藤陰比事』をはじめとして様々な文学作品を紹介し、探偵小説の視点から作品の魅力に迫る。日本人は裁判物が好きらしく、いや、日本人に限らないのかな……、とにかくさまざまな裁判小説があるのは事実。犯罪物が好きなのか、勧善懲悪ものが好きなのかはわからないが、裁判機構がある程度確立された江戸時代には数多くの作品がある。そんな作品をひとつひとつ分析しながらその魅力に迫るというのは、今でもほんとどない研究テーマではないだろうか。『御伽草子』や『雨月物語』といった怪談物も触れられているし、シェイクスピアなどにもあたっているところがすごい。最後の方が尻切れトンボに終わっており、研究の結末らしきものがないのは非常に残念なことであるが、古来から人は謎解きや犯罪物が好きなんだということがわかる研究書、いや随筆集である。
 ほかにも犯罪文学を取り上げた随筆、エッセイなどを収録。医学的な知識が今とは異なる部分があるとはいえ、犯罪文学としての取り上げ方は秀逸。思わず原文にもあたってしまいたくなる一冊である。
 『殺人論』は今一つだったが、これは傑作。もっといろいろな随筆があるのならまとめて欲しい。