平穏無事な日々を漂う〜漂泊旦那の日記〜

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高田郁『八朔の雪 みおつくし料理帖』(角川春樹事務所 時代小説文庫)

八朔の雪―みをつくし料理帖 (ハルキ文庫 た 19-1 時代小説文庫)

八朔の雪―みをつくし料理帖 (ハルキ文庫 た 19-1 時代小説文庫)

神田御台所町で江戸の人々には馴染みの薄い上方料理を出す「つる屋」。店を任され、調理場で腕を振るう澪は、故郷の大坂で、少女の頃に水害で両親を失い、天涯孤独の身であった。大坂と江戸の味の違いに戸惑いながらも、天成の味覚と負けん気で、日々研鑽を重ねる澪。しかし、そんなある日、彼女の腕を妬み、名料理屋「登龍楼」が非道な妨害をしかけてきたが……。料理だけが自分の仕合わせへの道筋と定めた澪の奮闘と、それを囲む人々の人情が織り成す、連作時代小説の傑作ここに誕生!(粗筋紹介より引用)

「狐のご祝儀 ぴりから鰹田麩(かつおでんぶ)」「八朔(はっさく)の雪 ひんやり心太(ところてん)」「初星 とろとろ茶碗蒸し」「夜半の梅 ほっこり酒粕汁」の4編を収録。巻末付録に「澪の料理帖」を収録。2009年5月刊行、文庫書下ろし。



帯に「2009歴史・時代小説ベスト10」(週刊朝日)、「2009年度 最高に面白い本大賞!文庫・時代部門」(一個人)、「第2回R-40本屋さん大賞文庫部門」(週刊文春)で第1位と書かれてあった。新聞広告で気になっていたのだが、本屋で見かけて面白そうだったので購入。時代物を読むのは久し振りだったが、確かに第1位をとっても可笑しくないと思えるほどの面白さだった。

主人公の澪と、周りにいる蕎麦屋「つる屋」の主人種市、大坂の奉公先であった料理屋「天満一兆庵」の御寮人であった芳、常連客で時々鋭いアドバイスをくれる小松原さま、青年医師永田源斉、向かいに住むおりょうに旦那で大工の伊佐三と息子の太一などが織り成す人情話。良い人に囲まれて幸せですね、的な話ではあるのだが、こういうのは素直に読むに限る。

上方と江戸の食文化の比較も興味深いし、なにより描写が丁寧なので情景が目に浮かんでくる。それでいて料理ものに在りがちのしつこさはないことも好感が持てる。

江戸にいるはずの若旦那は行方知れずのままだし、名料理屋「登龍楼」からの妨害などもまだまだ続きそう。旧友との再会についても気がかり。なによりすでにこの時期では適齢期を過ぎているはずの澪に恋物語があるのか。小松原さまの正体は。続編に向けていろいろな引きがあるのは気になるが、これはもう読むしかないな。

ただ残念なのは、今回出てくる料理のほとんどが私の苦手なものばかりであること。確かに美味しそうに書いているのだが、でも体に染み付いた拒否反応ばかりはどうしようもないからなあ……。