平穏無事な日々を漂う〜漂泊旦那の日記〜

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クリスチアナ・ブランド『暗闇の薔薇』(創元推理文庫)

暗闇の薔薇 (創元推理文庫)

暗闇の薔薇 (創元推理文庫)

『スペイン階段』のリヴァイヴァル上映を観た帰り道、サリーは一台の車がつかずはなれず、あとをつけてくるのに気がついた。いったんは無事やりすごせたかに思えたが、折りからの嵐に一本の巨木が音をたてて倒れ、行く手をふさいでしまう。進退きわまった彼女は、倒木のむこう側でおなじ目にあっていた未知の男性と車を交換、それぞれの目的地をめざすが……。嵐をついておこなわれた車の交換劇。そこに一個の死体がまぎれこんだことから、とほうもない謎の迷宮が構築される。英国の重鎮が華麗にして巧緻な筆さばきで贈る、型破りの本格傑作!(粗筋紹介より引用)

ブランド晩年となる1979年の作品。1994年翻訳。



冒頭で配役が書かれ、「以上の九人のなかに、殺人の被害者と犯人がいる。この殺人には共謀はないものとする」と書かれたら、期待しないわけにはいかない。しかし、前半でヒロインが追われているかもしれないというサスペンス部分はまだしも、そこを過ぎると登場人物を丁寧に書いているからかもしれないが、退屈な展開が続く。特にヒロインの性格というか、言動が好きになれないし、読んでいて苛立ってくる。その退屈な展開の中で様々な伏線が張られているのだから、気が抜けないというか、ちょっとしんどいというか。

探偵役は処女作『ハイヒールの死』以来38年ぶりに登場するスコットランド・ヤードのチャールズワース警視正。これがまた昔ながらの探偵役そのもの。登場人物一人一人の容疑、動機、反論などを挙げていくところなんか、懐かしさで涙が出てしまった。

結末で綺麗に謎が解けるところも含め、本格ミステリの名に相応しい作品ではある。それにしても、黄金時代に書かれたかと思われるような作品を1979年に発表するところは素晴らしいというか、今更というべきか。ブランドのこだわりは感じるが、違和感がないとはいえない。

ただ出来とは別に、こういう作品を読んでも個人的にはそれほど面白く感じられないところに、自分の好みが変わったと思ってしまう。この本を買った頃は多分そうではなかったと思うのだが。