平穏無事な日々を漂う〜漂泊旦那の日記〜

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ミネット・ウォルターズ『氷の家』(創元推理文庫)

氷の家 (創元推理文庫)

氷の家 (創元推理文庫)

フレッド・フィリプスが走っている……その言葉は八月の静かな午後、さながら牧師のお茶会で誰かが発したおならのように鳴りひびいた。庭師を周到狼狽させたのは、邸の氷室に鎮座していた無残な死骸――性別は男。だが、胴体は何ものかに食い荒らされたその死骸は、人々の嘔吐を誘うばかりで、いっこうに素性を明示しようとしない。はたして彼は何者なのか? 迷走する推理と精妙な人物造形が読む者を八幡の藪知らずに彷徨わせ、伝統的な探偵小説に織りこまれた洞察の数々が清冽な感動を呼ぶ。新しい古典と言うにふさわしい、まさに斬新な物語。英国推理作家協会最優秀新人賞受賞作!(粗筋紹介より引用)

1992年、発表。1992年、CWA(英国推理作家協会)最優秀新人賞(ジョン・クリーシー賞)受賞。1994年、翻訳、単行本刊行。1999年5月、文庫化。



ミステリーの新女王、ミネット・ウォルターズのデビュー作。買うだけ買って、そのままだった一冊。

屋敷に住む3人の女性。屋敷の主の夫は10年前に失踪したまま。村からは孤立し、村民からはレズだと噂されている。氷室から無残な死骸が発見され、警察が乗り込む。

警察を含む登場人物の全てが、悪意と皮肉と悪口の応酬になっており、読んでいて憂鬱になってくる。所々で書かれる性の開放の話などは、物語に本当に必要だったのか疑問。そのくせ、イギリスの小説らしいユーモアも出てくるから始末に悪い。

物語は女主人であるフィービに嫌疑を掛けるウォルシュ首席警部が一応中心となるも、今一つ焦点がピンとこないまま話が進むので疲れる。途中で友人のアンが襲われ、アンとマクロクリン部長刑事が中心となっていく。まあ、会話ばかりでノロノロしたよくある英国ミステリと比べると、テンポは悪くないと言えるかも。ただ、結末は退屈。

悪くはないが、「新女王」と呼ばれるだけの作品だったのだろうかという疑問がある。好き嫌いがはっきりする作風じゃないだろうか。『女彫刻家』はまあまあ面白かったけれど。