平穏無事な日々を漂う〜漂泊旦那の日記〜

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島田荘司『星籠の海』上下(講談社文庫)

 瀬戸内の小島に、死体が次々と流れ着く。奇怪な相談を受けた御手洗潔は石岡和己とともに現地へ赴き、事件の鍵は古(いにしえ)から栄えた港町・鞆(とも)にあることを見抜く。その鞆では、運命の糸に操られるように、一見無関係の複数の事件が同時進行で発生していた――。伝説の名探偵が複雑に絡み合った難事件に挑む!(上巻粗筋紹介より引用)
 織田信長鉄甲船が忽然と消えたのはなぜか。幕末の老中、阿部正弘が記したと思われる「星籠(せいろ)」とは? 数々の謎を秘めた瀬戸内で、怪事件が連続する。変死体の漂着、カルト団体と死体遺棄事件、不可解な乳児誘拐とその両親を襲う惨禍。数百年の時を超え、すべてが繋がる驚愕の真相を、御手洗潔が炙り出す! (下巻粗筋紹介より引用)
 2013年10月、講談社より単行本刊行。2015年12月、講談社ノベルス化。2016年3月、講談社文庫化。

 

 御手洗清シリーズを珍しく手に取る。舞台が島田荘司の故郷、福山市。後に玉木宏主演で映画化されている。
 読んでもがっかりするだろうな、と思いながら読んでいたら、予想通りなので笑った。推理すらなく、ほとんど未来予知としか言いようがないぐらいの先走り発言。全く説明もないのに、反感もなく素直に指示に従う警察。都合よく出てくるヘリコプターや高速艇。舞台が1993年なのに、ほとんどの人が携帯電話を持っている。まだ一般的には知られていないNPOが出てくる。当時はまだ存在すらなかった半グレが出てくる。
 当時から突っ込みまくられていたという記憶はあるが、こうやって読んでみると確かにおかしなところだらけ。
 それでもトリック満載の本格ミステリになっていたら、まだ読めたのだろうが、目の前にあるのは歴史の謎と、出来損ないのトラベルミステリと、スーパーヒーローによる大捜査線。村上水軍阿部正弘が記した「星籠」、福山や鞆の紹介、世界中から追われているも尻尾を出していないカルト集団の長、同じ場所に次々と流れてくる謎の死体、田舎で挫折した人たちの半生、謎の赤ん坊誘拐事件、ついでに島田荘司特有の社会批判。全く結びつきそうもない題材をこれでもかと集め、無理矢理結び付けた力業には感心するが、その接着剤が御手洗清ということで全く推理のないまま強引に話が進むところに呆れる。
 よほどの御手洗清、石岡和己ファンじゃないと、読むのがきつい。駄作と切り捨ててもいい。『占星術殺人事件』『斜め屋敷の犯罪』のころの輝きはどこへ行った、御手洗清。これだけ文字数を重ねないと物語をつくれなくなったか、島田荘司。まあ、10年前の作品に文句をつけても仕方がないか。