平穏無事な日々を漂う〜漂泊旦那の日記〜

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深水黎一郎『最後のトリック』(河出文庫)

最後のトリック (河出文庫)

最後のトリック (河出文庫)

「読者が犯人」というミステリー界最後の不可能トリックのアイディアを、二億円で買ってほしい――スランプ中の作家のもとに、香坂誠一なる人物から届いた謎の手紙。不信感を拭えない作家に男は、これは「命と引き換えにしても惜しくない」ほどのものなのだと切々と訴えるのだが……ラストに驚愕必至! この本を閉じたとき、読者のあなたは必ず「犯人は自分だ」と思うはず!?(粗筋紹介より引用)

2007年4月、『ウルチモ・トルッコ 犯人はあなただ!』で第36回メフィスト賞を受賞し、講談社ノベルスより刊行。2014年10月、改題、全面加筆修正の上、河出文庫より発売。



本格ミステリで残された「最後のトリック」とも言える「読者が犯人だ」に挑んだ作品。ある意味、こういうやり方があったのか、とは思ったけれど、厳密に言えば読者が殺人の実行者、というわけでは無いので、肩すかしを食らった感が強い。さらに言えばこのトリック、とある能力が必要とされるので、ずるいと言われても文句は言えないだろう。そもそも、こんな経緯のある新聞連載、本にする出版社があるか? その時点で破綻していると思うのだが。

これで小説が面白ければ、まだ救いがあったのだが、はっきり言ってつまらない。本筋ではない「超能力」の実験や説明のところが半分近くを占め、これがまた読んでいて退屈なのだ。よっぽど飛ばそうかと思ったぐらい。"謎の手紙"の内容もつまらないし、どこも面白いところがない。わずか一つのトリックを成立させるために、つまらないページを積み重ねたと言っていいだろう。

「読者が犯人だ」トリックに挑んだ、以外に何も言うことがない作品。このトリックにわくわくしてどんな内容でも許せる、という読者以外には何の面白みもない。まあ、話のネタにしたい人はどうぞ、程度のものである。メフィスト賞以外だったら、誰も見向きもしなかったはず。