平穏無事な日々を漂う〜漂泊旦那の日記〜

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結城昌治『魚たちと眠れ』(光文社文庫 結城昌治コレクション)

新興の化粧品会社が主催する洋上大学――豪華客船セントルイス号は、選ばれた百名の若い女性を乗せて、ハワイへ向かった。その最初の夜に発生した盗難事件、つづいて、美人女子学生が行方不明になり、さらに、女性講師のファッション・デザイナーが何者かに殺された。不安と同様に包まれる船内、海に閉ざされた巨大な「密室」で展開される本格ミステリーの快作!(粗筋紹介より引用)

週刊文春」1971年9月6日号〜1972年5月22日号掲載。1972年7月に文藝春秋より刊行。1976年にロマンブックス(講談社)、1977年に角川文庫より刊行。1981年、東京文藝社「結城昌治推理小説選集」第7巻として刊行された。



豪華客船に乗った100名の女性とともの洋上旅行。これだけ聞くと設定はよいのだが、船室は質素、予算はぎりぎりというところは「豪華客船」「洋上大学」という言葉とは裏腹にある見たくない現実。しかも大学の講師がまた生臭さそうな人たちばかり。事件の語り手も週刊誌の若手編集員だが魅力に欠けるあたりの妙なリアリティも、執筆当時の需要なのだろうか。豪華客船での女子生徒行方不明、さらに女性講師の密室殺人という表面だけみれば本格ミステリファンの購買意欲をそそられる設定なのだが、読み始めると裏切られることは間違いない。

事件そのものよりも、事件によって自らに降りかかる災難の方にあたふたする登場人物たちと、記者とは思えないぐらいぐずぐずな語り手にいらいらし、手がかりらしい手がかりが得られないまま、結末であっさりと解決される展開にも唖然。動機に愕然。ここまでバランスの崩れた本格ミステリも珍しい。これがあの『ひげのある男たち』などのすばらしいユーモアミステリを書いた結城昌治の作品なのか、と落ち込んでしまう一冊。