平穏無事な日々を漂う〜漂泊旦那の日記〜

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垣根涼介『サウダージ』(文春文庫)

サウダージ (文春文庫)

サウダージ (文春文庫)

故郷を忘れ、過去を消し、ひたすら悪事を働いてきた日系ブラジル人の高木耕一は、コロンビア人の出稼ぎ売春婦DDと出逢う。気分屋でアタマが悪く、金に汚い女。だが耕一はどうしようもなくDDに惹かれ、引き摺られていく。DDのために大金を獲ようと、耕一はかつて自分を捨てた仲間――裏金強奪のプロである柿沢に接触する。(粗筋紹介より引用)

別冊文藝春秋」246〜251号連載。2004年8月に単行本として出版された作品の文庫化。『ヒート・アイランド』『ギャングスター・レッスン』の姉妹編。“サウダージ”とは、「二度と会えぬ人や土地への思慕」とのこと。



垣根涼介を読むのは初めて。気にはなっていたが、サンミス作家は笹本稜平で充分とでも考えていたのかな。今回、時間が空いたときにたまたま手に取った文庫本を読んでみたのだが、どうもちょっと失敗。実はこの作品がシリーズものとは知らなかった。いきなりこの作品から読んだことで、シリーズとして読むよりも評価はやや落ちているかもしれない。もちろん、この作品を単独で読んでも、話の筋が追えないといった支障はなかったが。

シリーズとはいえ、過去2作の主役である柿沢、桃井、アキのうち、アキ以外の描写は少ない。そのアキにしても、柿沢や桃井からいろいろと教わっては、時々ふてくされるというだけで、あとは年上の女に溺れてしまうという柔な印象しかない。やはりこの作品の主人公は、耕一であり、DDである。

ただ、この耕一やDDの描写がどうしても好きになれない。自分勝手なんだか、愛情が深いのかさっぱりわからない出稼ぎ売春婦DD。そんなどうしようもない女になぜか惚れてしまう、悪事をはたらくことしかできない男耕一。好きな人にはたまらないのだろうが、こういう自分勝手な登場人物が苦手な私にとっては苛立つばかり。特に全編にわたって登場する暴力的なセックスシーンの描写には辟易してしまった。不必要と思われる部分も多いと思うのだが。

垣根涼介といえば犯罪シーンが売り物だと思っていたのだが、この作品に関して言えばあっさりしすぎて面白くない。これだけの計画なら、もっともっと書くことができるはずだと思ってしまう。今回の焦点はあくまで耕一とDDなのだから、犯罪シーンについて多数のページを割くことは好ましくないと思ったのだろうが、どうも柿沢たちや対する暴力団たちのことを考えると、こんなにあっさりとしていていいのと首をひねってしまう。

何気なく手に取っただけで、それほど期待もしていなかったが、それでも楽しめなかったというのは、たぶん順番通りに読めということなんだろうと思う。とりあえず、他の本を読んでから、垣根涼介についての評価を考えた方がよさそう。